金属労協、ベア要求半分に 政府の姿勢よそに現実路線
16年春季交渉「3000円以上」
自動車や電機など主要製造業の産業別労働組合で構成する金属労協は4日、2016年の春季労使交渉でベースアップ(ベア)に相当する賃金改善要求を月額3000円以上にすると正式決定した。大手と中小企業の賃金格差の是正、非正規従業員の待遇改善も要求に加える。要求の水準は6000円以上を掲げた15年春の半分。政府や経団連が15年を上回る賃上げを議論するなか、組合要求が15年を下回る異例の展開だ。

記者会見した金属労協の相原康伸議長は要求水準を月例賃金の1%程度とする理由を「経済情勢や格差是正、物価などを総合的に考慮した」と説明した。定期昇給相当分を含む3%の賃上げを求める政府の動きは「(組合の)要求なきところに回答はない。労使自治の原則に基づいて議論を進める」とはねつけた。
金属労協は産別労組の自動車総連、電機連合、基幹労連、ものづくり産業労働組合(JAM)、全電線で構成し、組織人員は200万人。月額3000円以上のベア要求で金属労協が調整に入ったことを受け、自動車総連や電機連合も4日までに月額3000円以上とする賃上げ要求案を固めた。交渉が2年に1度の基幹労連は16、17年度の2年合計で8000円を要求する方針だ。
傘下の産別労組には3000円以上という要求水準が低すぎるとの議論もあった。ただ、ベア要求の重要な根拠となる物価の上昇は小幅にとどまり、中国経済の失速などで企業の経営環境も不透明感が強まっている。競争力につながる労働生産性の向上などを賃上げの根拠としつつも、要求額は15年以下に抑えることが妥当と判断した。

10月の全国消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合)は前年同月から0.1%下落した。生鮮食品を含む指数も0.3%上昇にとどまり、日銀が目標とする2%上昇とは隔たりがある。
金属労協に加盟する企業の業績も過去最高益が相次ぐ見通しの自動車に比べると、電機は経営不振のシャープや会計不祥事で揺れる東芝などばらつきが大きい。大手50社の15年度決算は34社が営業増益を見込む一方、15社は減益の見通しだ。
産別労組のある幹部は「15年春は政府主導の賃上げムードに乗って浮ついた要求になった面もある」と振り返る。金属労協の幹部は「将来を見据えた議論が必要だ。今がよければいいという要求はしない」と話す。17年4月には消費税率10%への引き上げも予定されるなか、将来の労働・生活環境の変化を視野に要求を決めたという。
過度の賃上げは将来の雇用不安につながる恐れもある。ホンダが65歳までの定年延長で労使協議に入るなど、従業員が長く安定して働ける環境づくりに向けて、賃金制度や働き方を抜本的に見直す企業が増えている。政府と経営側が賃上げによる国内経済の活性化を重視した論戦を繰り広げるなか、組合は将来を見据えた現実論に立ち返る考えだ。