アリババ経済圏進化 スマホで撮ればネット通販注文
ビッグデータ・AIをフル活用

中国・アリババ集団(浙江省)のネット通販が「進化」している。ビッグデータ解析や人工知能(AI)をフル活用。スマートフォン(スマホ)で撮影すると8億個の商品群からお目当ての商品を探し出す仕組みも導入した。ユーザー数が4億5千万人を超え伸びが鈍化するなか、1人当たりの消費をどう増やすか。進化したアリババ経済圏で消費者の囲い込みを狙う。

「かわいいバッグですね。写真撮っていいですか?」。上海市の繁華街の昼下がり。若い女性が通りすがりの人に声をかけ、ハンドバッグをスマホで撮影した。AIを活用した画像認識システムが人間の目に代わり写真の商品を識別。8億もの商品群の中から類似の商品を選び出す。その間わずか3~4秒。あとは指先を動かして送り先を選ぶだけで購入に至る。
彼女が使うのはアリババの通販サイト「淘宝網(タオバオ)」の画像検索サービス。実際に使ってみると精度は高い。便利さを知った若者はこぞって、百貨店や商店街で商品にスマホをかざし、タオバオ経由でショッピングを楽しむ。スマホ世代の若者にとっては、身の回りのあらゆる空間を瞬時にショーウインドーに変える魔法のツエだ。
「ネット通販は『需要を満たす』から『需要を創る』段階に入った」。18日夜、投資家向けの決算説明会でアリババの張勇・最高経営責任者(CEO)は好業績の理由を語った。2017年3月期の売上高は56%増の1582億元(約2兆6千億円)、本業のもうけを示す営業利益は65%増の480億元といずれも過去最高を更新した。
売上高の7割を占める国内ネット通販のユーザー数は伸び悩んでいる。今年3月末に4億5400万人に達したが、1年間の伸び率は7%と前の期の20%増から鈍化した。半面、急伸したのが1人当たりの売上高だ。17年3月期は251元と1年前に比べ33%増加。10%増だった前の期に比べ伸びが著しい。

アリババは出店者からの手数料やサービス利用料を「売上高」として計上している。実際に売買された商品の総額のおおむね3%程度がアリババの売上高だ。逆算すると、1人当たり売買総額は年10万円を超える水準に急増したとみられる。
売買総額の引き上げに大きな役割を果たしたのが画像検索などの新サービスだ。今年に入って急速に広まった。米アマゾンも画像検索サービスを提供するが、文字を認識し本や商品を選べても、形や色の解析までは至っていないもようだ。
一方、朝の通勤電車。会社員らしき若い男性が、車のスピードメーターのような画像が表示されたスマホ画面に見入っている。アリババの関連会社が提供する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」の画面だ。
アリペイは膨大な利用実績を基に個人の信用力を評価するサービスを開始。スマホ画面をタップするとスピードメーターが動き出し、数秒で自分の「信用力」が算出される。950点満点で評価が高いほど受けられる優遇サービスが増える仕組みだ。具体的には低利融資が受けられたり、ブランド品購入時の分割手数料が無料になったり、ホテル宿泊の際のデポジットが免除されたりする。
消費者は信用力を高め優遇サービスを受けようとアリペイで積極的に買い物をする。一方、信用力の高い「優良顧客」は多くの小売企業にとって、のどから手が出るほど欲しい情報。アリババは様々な企業と組んで、優良顧客を対象としたサービスの開発を進める。
アリババの「需要を創る」という取り組みはクラウドを基盤としたビッグデータ解析や、机上の論理ではない「フィンテック」を顧客に分かりやすい形で提供する。人々の消費を「アリババ経済圏」に取り込むことに成功しつつある。
一方でネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)は17日、無料対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の利用者が9億人を突破したと発表した。一般に顧客基盤が大きいほど、新サービスの提供やデータ解析で優位に立つ。ネット通販を進化させる形で実店舗の顧客を奪い、消費の世界で圧倒的な地位を築きつつあるアリババだが、巨大な経済圏を創るという点でまだ安心はできない。