2019年9月22日(日)

輝き取り戻す国産線香花火 作り手に聞く奥深さ

2015/7/22付
保存
共有
印刷
その他

国産の線香花火が見直されている。主流の中国産に比べ火花が大きく、長持ちするのが魅力。中国産の価格が1本あたり2~3円なのに対し、国産は60円以上と高価だが売れ行きは好調だ。生産しているのは国内に3社のみ。流通業者やメーカーを訪ね、線香花火に込めた思いを聞いた。

■3年かけて復活

日本で線香花火を作り始めたのは江戸時代とされる。職人らが手作りで生産してきたが、安い中国産に押され国産品は次第に姿を消していった。1998年に福岡の製造業者が撤退し、日本国内で製造するのは一時、1社だけになった。「伝統を消してはならない」と老舗花火問屋の山縣商店(東京・台東)の山縣常広会長らが産地に再び生産を呼びかける。これに応じた数社が生産を始めた。山縣会長は「日本の線香花火は300年の伝統があるが、今ではほとんど中国産になってしまった。日本から消えては大変で、3年間かけて復活させた」と話す。

山縣商店はでは国産の線香花火「大江戸牡丹(ぼたん)」「不知火牡丹」などを発売する。山縣さんは「色合いや長さの違いは見た目でもすぐ分かる」と国産と中国産を手に取りながら力説する。実際に火をつけて比べるとその差は歴然。記者が試した際もばらつきはあるが、ほとんどが日本産のほうが長持ちした。火花の飛び散り方が大きく変化する「起承転結」がはっきりと出る。

線香花火の製造所を訪ねた。福岡県南部のみやま市。ブドウ畑に囲まれた筒井時正玩具花火製造所の事務所兼直売所には自慢の線香花火がずらりと並ぶ。種類は8種類。なかでも目を引くのが桐箱(きりばこ)に入った1万円(税抜き)の線香花火「花々」。火薬に宮崎産の松煙(しょうえん)、紙は福岡県八女市の手すき和紙と、地元九州の素材にこだわった。和紙を草木染で染めている。40本入りで、和ろうそくとろうそく立てがセットになっている。花の飾りを作る職人が1人しかいないため、年間200~300個の生産が限界。7月初めの時点で、注文しても1カ月半待ちだった。

東日本と西日本で異なる線香花火の形。東日本で主流の和紙を長くよったものは「長手」、西日本に多い持ち手がワラのものを「すぼ手」と呼ぶ。東日本は和紙の生産が盛んだったので紙を使い、稲作が盛んだった西日本はワラを使うという。この2種類を作っているのも同社だけだ。

創業約90年。当初、線香花火は作っていなかったが、3代目の筒井良太社長が3年間手伝った福岡県八女市の業者が廃業する際に引き継ぐ。2000年にオリジナルの線香花火を発売した。パッケージをつくる資金もなく、それまでは花火の中身を提供する商売だった。「線香花火だけは自社のオリジナルを作りたい」という思いもあった。

■年間50万本で手いっぱい

全国的に認知度が高まるにつれ、注文も増えているが生産が追いつかない。手作りなのでどうしても限界がある。年間50万本ほどの生産で手いっぱいだ。線香花火の製造は根気が必要な作業だ。和紙の先に0.08グラムの火薬をのせる。昔は目分量だったが、今は専用の計量スプーンを使う。火薬をのせた和紙を親指と人さし指で丁寧によっていく。花火を長持ちさせるためには火薬を包む際にしっかりと空気を抜くことが大事だ。配合を間違えれば火花がきれいに飛ばず、和紙で火薬を包む力加減が弱すぎると火玉がすぐに落ちてしまう。この指先の微妙な力加減が火花の質を左右する。

毎年、職人さんの応募は50人ほどあるが、4~5人残ればいいほうだ。細かく教えていって育てるのに5カ月かかる。技術は若い人のほうがすぐ習得できるが、千本、万本作るとなるとなかなか根気が続かない。筒井さんのところでは50~60歳代の職人がメーンという。

ワイン同様、いい素材を使った線香花火は「熟成」する。天然の素材なので火薬が湿気を吸ったり、吐いたりして、年月がたつといい火花を出すという。火をつけてから時間の経過に伴い、つぼみ、牡丹、松葉、散り菊と燃え方が変わっていく。気象条件や湿度によっても燃え方が違う。筒井さんは「人生にたとえてみても面白い。つぼみができるのが幼年期、大きく火花が飛び出る牡丹が青年期、最後が老年期など。自分が今、どの辺りにいるのか。思いながら楽しんでもらえれば」と話す。

こだわりの手持ち花火「fireworks」の発売元であるメソッド(東京・渋谷)。本屋や雑貨店で手持ち花火を一種類ずつ個別包装で販売する。「国産の線香花火の魅力は4段階に変化する火花のうつろいを表情豊かに咲かせることです。江戸時代より受け継がれてきた、日本の夏の情緒をぜひ体感してみてください」(メソッドの村上純司さん)

花火の場合、食品のような「国産は安心・安全」という訴求力は弱く、消費者に伝わりにくい。安い中国産に太刀打ちできず、国産のシェアは数パーセントにすぎない。それでも筒井さんは取り組んでよかったという。「線香花火は作るのも奥が深い。燃やしても深い。その伝統を伝えるのが重要なんです」

(村野孝直)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。