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「見えない力働いた」 稀勢の里、けが越え連覇

表彰式での君が代大合唱に、稀勢の里は涙でクシャクシャになった。「自分の力以上のものが出た。見えない力が働いた」。荒れに荒れた春場所の最後、大きなドラマが待っていた。

けがを乗り越え、逆転優勝し涙ぐむ稀勢の里。新横綱の優勝は1995年初場所の貴乃花以来22年ぶり(26日、大阪市)=淡嶋健人撮影

優勝決定戦に持ち込むには勝つしかない本割。手負いの新横綱を鼓舞する手拍子の中、真っ向勝負が身上の稀勢の里が右に変わった。照ノ富士に差されて頭をつけられたが不成立。2度目の立ち合い、「同じことはできない」と左に飛んだ。

頭を下げての懸命な押し合いも組み止められて右前みつを許し、痛めた左腕を絞り上げられた。後ずさりしながら左腕を抜く。防戦一方の中、回り込んでの右突き落としに大関の巨体が落ちた。館内は熱狂の渦だ。

続く決定戦も後手に回った。立ち合いのもろ手突きがすっぽ抜け、あっという間に二本差された。棒立ちで後退した土俵際。「やったことがない」という右からの小手投げに照ノ富士が裏返った瞬間、相撲史に新たなページが加わった。

新横綱では貴乃花以来22年ぶりとなる連続優勝は紛れもない奇跡だ。13日目の日馬富士戦で左肩を痛め、救急車で運ばれた。強行出場した14日目は鶴竜になすすべなく寄り切られた。まともな相撲が取れる状態ではない中、怪物大関に2度勝ったのだ。

「気持ちだけぶつけようと思って土俵に上がった。諦めないでよかった」と稀勢の里。つい先日まで勝負どころで決まって心の弱さを露呈していた30歳が見せた不屈の精神。1度の優勝で人はこうも変わるのか。

2001年夏場所、大ケガを押しての出場で優勝した貴乃花はその後、7場所連続休場に追い込まれ、再び賜杯を抱くことはなかった。

この日、優勝した事実をもって稀勢の里の強行出場が「正しい選択」だったというのは難しい。だが感動はしばしば、正誤を超えたところで生まれる。それもまた、ひとつの真実である。

(吉野浩一郎)

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