英の漱石記念館、閉館1年前倒し EU離脱余波で9月に
【ロンドン=共同】文豪、夏目漱石の英国留学に関する資料を展示するロンドンの「ロンドン漱石記念館」が9月で閉館することが分かった。手弁当で32年にわたり運営を続けてきた漱石研究家、恒松郁生さん(64)が明らかにした。
恒松さんは漱石の生誕150年となる来年まで続ける予定だったが、英国の欧州連合(EU)離脱を受け、ロンドンの不動産市況が悪化。閉館後に記念館が入るアパートの部屋の売却収入を見込んでいたが、価格はすでに1割近く下落、今後も好転する見通しはない。妻の芳子さん(56)と相談の上、1年前倒しすることになった。
記念館は国費留学生として1900年から2年間、漱石が留学していた当時の街の写真や漱石の名前が記された国勢調査資料のコピーなど、恒松さんが集めた多数の資料を展示。帰国後に大作家となった漱石の原点を探ろうと、国内外の多くの研究者が訪問し、皇太子さまや海部俊樹元首相、作家の故司馬遼太郎氏らも訪れている。
恒松さんは2004年以降、熊本市の崇城大で教壇に立っているが、来年春に定年退職予定。その後は米国やフランスなどで在外日本人の足取りをたどる研究を続ける予定だったが、それも不透明になった。
記念館はこれまで2~9月の土日と水曜日の週3日に限って開いてきた。9月28日が最後の開館日となる。
恒松さんは「予期せぬ英国のEU離脱で、閉館が1年早まったのは残念だ。(約2千点の)資料は、多くの漱石ファンが納得できる形で今後も活用したい」と話している。