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偽バス停に想う津波前の景色 若手芸術家が制作

東日本大震災による津波で壊滅した仙台市若林区荒浜は、一帯が災害危険区域に指定され住民は去った。市バスも運行休止。なのにバス停が増えた。赤い表示板には「偽仙台市交通局」の文字がある。「震災前の風景を思い出して」と、宮城県利府町出身の若手美術家、佐竹真紀子さん(25)が作った本物そっくりの「偽バス停」が訪れる人々の心を癒やし、励ましている。

2011年3月11日、武蔵野美術大の1年生だった佐竹さんは東京のアパートで強い揺れを感じた。その夜テレビに、荒浜海岸で多数の遺体が見つかったことを知らせるテロップが映った。忘れられない。でもすぐには足を運べなかった。芸術家として震災にどう向き合い、何ができるか悩んだ。

翌年夏、荒浜を訪れようと乗ったバスは、終点手前までしか運行していなかった。かつて終点だった町のことが心に引っ掛かり、帰省のたびに通った。「荒浜は誰かが来るのを待っているような気がする」

大学院のアトリエで終点「深沼」のバス停を作り、15年6月末、現地にこっそり置いた。「勇気をもらった」「ありがとう」。元住民から予想外のうれしい言葉を掛けられた。2作目以降は「バスのりば」の文字の代わりに「またきてね」「おかえり」などの温かいメッセージを書き入れた。

「偽物という言葉には嫌なイメージもあるけれど、震災前の本物の風景を思い起こすきっかけになると思って」。偽バス停は今では10個を数える。

今年2月中旬、偽バス停の深沼を訪れると、風で倒れないようにと誰かの手でくいが添えられていた。荒浜を愛する人たちによって、偽物は風景になじんでいく。

4月、荒浜へ行くバスが停留所1個分、延長される。本物が登場したら撤去する偽バス停について、佐竹さんは「旅する停留所にしようかな。荒浜のことを別の町で伝えたり、廃校になった荒浜小の卒業生をバス停と一緒に訪ねたりしたい」と考えを巡らす。

偽バス停を見た人が思い浮かべる風景は、震災前の景色かもしれないし、将来の理想の姿かもしれない。「バス停が現実と想像の間をつなぐ存在であってくれたら」とほほ笑んだ。〔共同〕

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