「高齢者が地域で住み続けられるよう手助け」
秋山正子・暮らしの保健室室長
新潮流をつかむ(6)
高齢者が集うスペース「暮らしの保健室」を設けた秋山正子室長に在宅介護の現状や課題を聞いた。
――戸山ハイツは高齢化が著しい。保健室にはどんな人が訪れますか。

「暮らしの保健室を開いた3年前、65歳以上の高齢者比率は46.3%だったが、現在は50%を超えている。病気や障害を抱えた人や独り暮らしの高齢者も少なくない。相談を受けるスタッフは、看護師、薬剤師のほかボランティアら。がん治療や緩和ケア、薬の飲み方、介護相談など、健康や生活にかかわる様々な相談に乗ったり、病院や地域の医師との橋渡しをしたりしている」
「ただ、最初からこれを相談したいと言って訪れる人ばかりではない。お茶が飲めるらしいと聞いてやってくる80歳代の女性もいる。世間話をするうちにいろんな不安を抱えていることを打ち明けてくれる。例えば、独り暮らしを心配する子どもから同居しようと誘われているが、踏ん切りがつかない。出来れば長年住み慣れたこの街で暮らしたいが、健康上の不安もある――といった具合だ。訪れる人は月に延べ約200人。話しているうちに涙ぐむ人もいる」
――国は病院や介護施設ではなく、地域で暮らすよう在宅での療養や介護を推進しています。
「2000年に施行された介護保険法は高齢者の自立する力を引き出すと、理念をうたっている。06年の改正で要介護にならないようにする『介護予防』に重点を置いたが、今再び、自立支援の充実を打ち出している。暮らしの保健室では、地域で高齢者が住み続けられるように手助けをすることを目指している」
「最初から自立支援というわけではなく、まずは高齢者に地域のネットワークの中に入ってきてもらい、孤立を防ぐのが大切だ。団塊世代が次々に高齢者(65歳以上)になっている。この世代の人たちを健康でいられるようにし、自分の楽しみを見つけながら、地域で後期高齢者(75歳以上)の人を支える形ができれば、と思う。70歳までは元気な人も多く、その間に自分の生き方と逝き方をデザインしてもらうのがいいのではないか。暮らしの保健室では、栄養士を招いた食事会を週1回開くなど、オープンな場作りを心がけている。現代版井戸端会議や銭湯のような、気軽に寄り合える場所にしていきたい」
――訪問看護ステーション事業も立ち上げていますが、在宅看護や介護の今後をどう見ていますか。
「通所型がよいのか訪問型がよいのかは、地域によって大きく異なる。また医療的な処置が必要な人への支援をどうするかも大きな課題だ。口から食べられなくなり胃瘻(いろう)など経管栄養の処置を受けた人を、在宅や高齢者福祉施設で介護するのは難しい。一部の有料ホームでは、こうした人を受け入れているが、特別養護老人ホームの入所枠は極めて限られており、生活や療養の場を見失いがちだ。このため来年夏をめどに、小規模ながら、訪問、通所、宿泊のできる施設を立ち上げたいと考えている」