斜線の遺言書「無効」 最高裁判決、「故意に破棄」認定
遺言者自ら斜線を引いた遺言が有効かどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は20日、「故意に遺言を破棄したといえ無効」とする判断を示し、有効とした二審・広島高裁判決を破棄した。自筆で遺言を残す人が増える中、一定の条件下で遺言者の意思を尊重した判断といえそうだ。
判決によると、2002年に死亡した広島市の男性が生前、土地建物や預金などのほぼ全財産を長男に相続させるとした自筆の遺言を作成。その後、遺言書の左上から右下にかけて自ら赤いボールペンで斜線を引いた。もう1人の相続人である長女が「遺言は故意に破棄された」として、無効の確認を求めて提訴した。
一審・広島地裁は、男性が遺言を撤回する意思で斜線を引いたことは認めたが、「元の文字が判読できる程度の斜線では効力は失われない」と判断。長女の請求を退け、二審・広島高裁も判断を維持した。
同小法廷はこの日の判決理由で「赤いボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、一般的には遺言の全効力を失わせる意思の表れとみるべきだ」と指摘。「故意に遺言を破棄したといえ、効力はない」と結論付けた。
司法統計によると、自筆の遺言を家庭裁判所で公文書にする検認手続きの受付件数は、14年に1万6843件と直近5年間で2割増えた。
NPO法人「遺言・相続リーガルネットワーク」事務局長の長家広明弁護士は「遺言は書いた本人が中身を説明できないため厳格な形式が求められるが、行き過ぎた形式主義を修正し、遺言本来の趣旨に立ち返る判決だ」と評価。「ただトラブルを防ぐためには公正証書遺言を作るのが望ましい」と指摘している。