米、通貨と通商で二重の圧力 2国間協定に為替条項

2017/1/28 0:43
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トランプ米大統領は26日、日本などと想定する2国間の通商協議で「通貨安誘導に極めて強い制限を導入する」と表明した。国際的な通商協議の対象に通貨を含めるのは極めて異例で、無理強いすれば2国間の自由貿易協定(FTA)が進まなくなる。日銀の超低金利政策でドル高が進みやすい構図だけに、トランプ氏の発言がエスカレートするとの懸念も出ている。

「大きな衝撃だった」。日本の通商担当者は27日、トランプ氏の為替条項発言に肝をつぶした。通商交渉は関税引き下げや貿易ルールが中心で、「極めて強い」通貨安誘導の制限措置を盛り込むのは前例がない。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でも米連邦議会の意向をくむ米政府が協定に為替に関する条項を盛り込むよう提起した。だが日本のほか、為替介入を実施するマレーシアやシンガポールの猛反発で頓挫。妥協案としてTPP参加国の担当者が定期的に会合を開き、為替政策に関し対話する仕組みを導入することにした経緯がある。

菅義偉官房長官は27日の記者会見で米国と2国間協定の交渉になった場合「(TPP交渉のときと)同じ主張をする」と述べ、為替操作防止規定に慎重姿勢を示した。米政府内では「中国を操作国に指定し、通貨安分の報復関税をかける」といった案が取り沙汰されるが内容は不明。「為替操作」の定義も定かでない。

トランプ氏がTPPから「永久離脱」した大きな理由も為替だ。ここまで牙をむくのは「ドル高は米雇用にマイナス」という理屈が世論受けしやすいためだ。日本車にシェアを奪われる米自動車大手もTPPを「通貨安政策への十分な対応が盛り込まれていない」(米自動車政策評議会のブラント代表)と批判。さらなるドル高を阻止する点でトランプ氏と米製造業の足並みがそろう。

だが、相手国の為替政策を無理に縛ろうとすれば、特にシンガポールのように為替介入を恒常的にしている国は米と交渉のテーブルにつけない。日本など先進国も為替条項の明文化に応じる可能性は低いため2国間の通商協議は暗礁に乗り上げ、トランプ氏は自らの首を絞めるかたちになる。

米が独自の為替ルールを設ければ20カ国・地域(G20)や国際通貨基金(IMF)の合意などとも矛盾が生じる。「急速な為替変動は経済に悪影響」という原則に沿ってIMFなどは各国に一定の条件下で為替介入を容認している。2011年の東日本大震災後に急速な円高が進んだ局面では米も含むG7(主要7カ国)が円売り・ドル買いの協調介入をした。

世界で唯一の基軸通貨国が国際合意と整合性の取れないルールを押しつければ、為替安定策がダブルスタンダードとなり市場が大混乱するばかりか、自国通貨をドルに連動させる「ペッグ」が崩れてドル離れが加速するリスクがある。

日米は2月10日にも首脳会談を開く方向で調整中だ。11年秋から為替介入を避け「通貨安誘導はしていない」とする日本に対し、トランプ氏が為替でどこまで踏み込んでくるかが焦点だ。

「金融政策にまで口出ししてくると面倒なことになる」。政府関係者は27日、米側が日銀の緩和策を「円安誘導」と批判してくるリスクを否定しきれないと漏らした。

日銀は長期金利を0%程度に固定する一方、米連邦準備理事会(FRB)は追加利上げを探っており方向性は逆だ。このため日米の金利差が開き、ドル高が進みやすい。

国内経済を浮揚させる金融緩和はG20も容認するものの、市場では米のドル高抑止が先鋭化してくれば、政府・日銀の為替政策が縛られることもありうるとの観測が出ている。

為替監視国リストを作成したオバマ政権以上にトランプ氏が厳しい態度で臨んでくるのは確実で、日本は通商と通貨の二正面で経済政策の防戦を迫られる。

(ワシントン=河浪武史、中村亮)

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