G20、米国第一「1対19」 パリ協定、米抜きでも順守合意

2017/7/9 0:30
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 【ハンブルク=石川潤】トランプ米政権が1月に発足した後、初めての20カ国・地域(G20)首脳会議で、地球温暖化対策や反保護主義などをめぐり、米国と主要国の対立が鮮明になった。トランプ氏の「米国第一」に翻弄された欧州は温暖化対策で米国を除いた「1対19」の合意を画策。反保護主義でも鉄鋼の輸入制限案を打ち出した米国と日欧の溝が深まった。懸案の解決へ力強いメッセージを発信することはできなかった。

 「意見の一致はなかったが、声明文で(米国とほかの19カ国・地域の)違いがはっきりした」。議長国ドイツのメルケル首相は8日の首脳会議後の記者会見で、疲れた表情ながらどこか晴れ晴れと語った。温暖化対策で米国と意見が割れることは織り込み済み。むしろ米国以外の19カ国・地域が国際的な枠組み「パリ協定」の順守でまとまったことを喜んだ。

 温暖化対策は議長国ドイツが最大の焦点と位置づけていた。メルケル氏にとって環境問題は就任時から取り組み続けてきたいわばライフワーク。米国のパリ協定離脱でゼロに戻されてしまってはたまらない。

 米国が頼りにならないなか、G20として気候変動にどう向き合っていくのか。メルケル氏は世界全体に明確な「シグナル」を送るべきだとして、サミット前から中国やロシア、アルゼンチンの首脳らとの個別会談を重ね、根回しを進めてきた。

 「共に地球規模の問題に対応する」(中国の習近平国家主席)。メルケル氏の説得も功を奏し、会期中に中国やロシアが米国抜きでもパリ協定を順守する表明。サウジアラビアやトルコのような米国との関係の深い国もなびき、離脱の連鎖や協定の形骸化という最悪の事態は免れた。

 米国の離脱は認めざるを得ないが、ほかの19カ国・地域は積極的に責任を果たす――。独などの欧州が画策した「1対19」の声明案。G20の中で意見が割れたようにみえても、できるだけ分かりやすいメッセージを打ち出すことを狙った。

 米国との対決色が強まることを懸念する中国は、米国が飲めない声明案には難色を示した。このため米国の立場を声明文に盛り込むなどの一定の譲歩をし、米国も賛成できるかたちにして声明案を採択した。気候変動の討議中、G20の主役であるはずのトランプ氏がロシアのプーチン大統領との首脳会談を理由に席を立つなど、最後まで波乱含みだった。

 もう一つの焦点である反保護主義の議論をこじらせたのも、トランプ氏だった。米国が鉄鋼製品の関税を引き上げるという輸入制限案を検討していることが判明したのはサミット直前。欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は「(実際に関税が引き上げられれば)迅速に対応する」と述べ、対抗策を示唆し、強く反発した。

 米国による鉄鋼の関税引き上げで影響を受けるのは、欧州との経済連携協定(EPA)で大枠合意したばかりの日本も同じだ。安倍晋三首相も首脳会議で「どの国の得にもならない」と保護主義への懸念を表明した。

 5月の主要7カ国(G7)による首脳会議(タオルミナ・サミット)では、首脳宣言に「保護主義と闘う」という言葉を盛り込んだ。「不公正な貿易慣行に断固たる立場を取る」との米国の主張も盛り、当初は反保護主義の明記に難色を示した米国を譲歩させた。

 今回のG20サミットでも、公正さを確保しながら保護主義と闘うという基本線は堅持した。だが、声明文では米国への配慮として、貿易を制限する「正当な」措置を認めるとの一文が入った。世界貿易機関(WTO)などのルールを守ることが前提だが、独自の判断で貿易障壁を設けることに道を開いたとの誤解を与えかねない。

 日欧などと米国との溝の深さは誰が見ても明らか。G20の主要国が手を携えて自由貿易を推し進めるというメッセージは示せなかった。

 中国のように、本来であれば保護主義的だと非難されても仕方のない国が、米トランプ政権の陰に隠れて問題とされにくくなっている。貿易の伸びの鈍化が世界経済の成長を抑えている現状をどう改善していくか。G20は明確な処方箋を示せずに迷走している。

 「G20は国際政治ではなく、経済や金融市場に関する集まりだ」。初日の討議が終わった後、北朝鮮問題を説明する際にメルケル氏はこう語り、深入りを避けた。

 北朝鮮や中東、紛争解決の道筋が描けないウクライナ……。G20の指導者が話し合うべきテーマは多い。テロ対策を協力して進めていくことでは各国が一致したが、そもそも紛争地域の安定がなければ、テロの根絶は期待できない。

 トランプ政権の出方が読みにくいこともあり、議論はただでさえ停滞気味だ。米欧が対立する地球温暖化や反保護主義での調整に多くの時間を割けば、安全保障や難民問題、アフリカの開発問題などじっくり話し合わなければならないテーマにも影響が及びかねない。

 今回のG20では、世界経済がリスクを抱えながらも順調に回復しつつあるとの認識を確認した。主要国は財政政策や金融政策、構造改革などの政策を総動員し、経済成長をより確かなものにしていく構えだ。ただ実際には、G20の足並みの乱れ自体が世界経済のリスクになりつつある。

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