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食パン、関西なぜ厚切り?(謎解きクルーズ)

粉もん文化 もっちり好き

朝の食卓に欠かせない食パンは全国的に1斤6枚切りが主流だが、関西では厚めの5枚切りが1番人気だ。一方、関東で売られている8枚切りは関西ではほとんど見かけない。これだけ違いが出るのはなぜか。調べてみると、だんだんと厚くなってきた歴史があった。

敷島製パンによると、主力の「超熟」の売上高は関西では5枚切りが46%で最も多い。一方、関東では6枚切りが57%を占め、5枚切りは10%。フジパンの「本仕込」も関西は5枚切りが45%、6枚切りが36%だが、関東では5枚切りが6%、6枚切りが58%と逆転する。5枚切りの標準は24ミリ、6枚切りは20ミリとされ、たった4ミリの違いだが地域差は鮮明だ。

「関西から関東に引っ越した人から『何で5枚切りがないのか』と問い合わせが来る」(敷島製パン広報室)。関東で23%を占める8枚切りは関西ではわずか2%。逆に「関西に越してきた人からは『8枚切りはないのか』と言われる」(同)という。

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東西で嗜好が大きく異なる理由について、敷島製パンとフジパンはともに「お好み焼きなど『粉もん』文化の関西はもっちりした食感の5枚切り、パリッとした煎餅文化の関東はさっくりした食感の6枚切りが人気」と分析する。

老舗の神戸屋(大阪市)はパン食の始まりから説明する。「関東は銀座木村屋のあんパンから親しんだため、お菓子であり、間食やサンドイッチ用として普及。関西は当社が外国人に提供したのを機にホテル、レストランを主な販売先として広がった」(経営企画室)という。

つまり、関東は間食=薄切り、関西は食事=厚切りというわけだ。都市別の食パン消費金額(総務省調べ)を見ても、上位3位まで神戸市、京都市、奈良市と厚切りの関西勢が占める。

日本で最初に食パンを作ったのは1860年代のヨコハマベーカリー(横浜市、現ウチキパン)とされる。1965年に神戸屋に入社した全大阪パン協同組合の高木潔専務理事は若い頃、銀座木村屋の長老から「戦後間もなく、進駐軍からサンドイッチ用に8枚切りの食パンを作るよう指示された」と聞いた。60年ごろまでは全国的に8枚切りが主流だったという。

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薄い8枚切りから、厚切りへの扉を開いたのが60年ごろから始まった神戸屋の6枚切りキャンペーンだった。「パン食を広げるにはおいしさがより伝わる厚切りの方がいいと考えた」(経営企画室)。神戸屋は58年、大手企業で初めてパンの自動包装機を導入。手作りに比べて効率が上がり、大量生産が可能になった。

食パンは工場段階でスライス・袋詰めして出荷する場合と、店頭でスライスする場合の両方がある。同時期、神戸屋の工場では8枚切りの設備を6枚切りに改造した。高木さんは「食パンを切るスライサーを店頭に持ち込んで試食できるようにした」と振り返る。敷島製パンも68年、6枚切り食パン「厚ぎり」を発売、全国的に6枚切りが主流になっていく。

では、関西で人気の5枚切りはいつから始まったのか。最大手の山崎製パンのほか、敷島製パン、フジパン、神戸屋はそろって「詳しいことはよくわからない」と口をそろえる。高木さんは「6枚切りはメーカー側の仕掛けがあった。5枚切りは販売する店と客とのやりとりから自然に生まれ、広がっていったのではないか」と推測する。

関西は中小のベーカリーが多かった。ほとんどの店はスライサーを持ち、店頭で食パンを客の好みに合わせてスライスして売る伝統があった。1斤の中で「半分は6枚切り、半分は5枚切り、余りの『耳』も入れておいて」という手の込んだ注文にも快く応じていたようだ。

大阪市の「千寿堂」は40ミリ近い厚さの3枚切りも販売している。客から「厚いのが欲しい」とリクエストされたのがきっかけで、スライサーの目盛りの限界が3枚切りだったためという。

近年はもっちりした食感が各地で好まれるようになり、メーカーも生地や製法を改良し、より柔らかなパンを相次いで発売。4枚切りも売られるようになった。

メーカーが仕掛けて広がった6枚切りと、関西のベーカリーが客の要望にこたえて作っていった5枚切り。毎日食べる食パンにもこんな物語があった。(大阪地方部 泉延喜)

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