都市はイノベーションの実験場 安全を面でカバー
NTTドコモ執行役員 栄藤稔

2016/4/26 6:30
保存
共有
印刷
その他

4月18日、神戸市とNTTドコモは神戸市役所にて久元喜造市長と加藤薫社長による記者会見を行い、「ICT(情報通信技術)及びデータ活用に関する事業連携協定」を発表した。今回は協定に含まれている「人を、モノを市民が見守るまち」というテーマの実証実験を取り上げたい。

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

ブルートゥース・ロー・エナジー(BLE)という省電力の通信規格をご存じだろうか。ほとんどのスマートフォン(スマホ)はこのBLE規格の通信を行える。この規格を使ってスマホと腕時計・健康機器・玩具などとの間で近接通信する応用が広まろうとしている。

最近、BLEタグというボタン電池で1年以上動作する超小型装置が出回るようになった。これを使えばスマホと常時通信できる。キーホルダーや財布につければ、スマホの近くにそれらがあるかどうかがわかる。例えばキーホルダーを置き忘れそうなときは自分のスマホが教えてくれる。

ではBLEタグを付けたキーホルダーを会社に忘れてきたらどうなるのか。実はこれが泣き所だ。手元にないことは分かっても、会社にあるかどうかは確認できない。

でも置き忘れたキーホルダーが同僚のスマホの近くにあり、そのことを同僚のスマホがネット経由で知らせてくれるようにしたらどうか。会社にある忘れ物を見つけられる可能性が高くなる。

では電車の中でうっかりキーホルダーを落としたらどうするのか。その場合は鉄道会社の遺失物係のスマホが知らせてくれる。そうした機能を持ったアプリをスマホに搭載するだけでよいのだ。

神戸市とNTTドコモの実験では、BLEタグを小学生のランドセルに付けてもらう。BLEタグを検知するアプリを保護者や福祉関係者を中心とする市民がスマホで動作させ、相互に連携して児童の登下校を見守るというのが目標だ。BLEタグを高齢者に持ってもらうことも予定している。

BLEタグを点ではなく、面で検知したいので小学校や高齢者施設、公共施設および鉄道の駅などに検知ポイントを設置する。生命保険・損害保険会社やタクシー会社、運送会社などの協力も仰ぐことにより、BLEタグの検知ネットワークを神戸市全域にきめ細かく構築する。

このネットワークは安心安全社会の実現に賛同してくれる多くの地域企業の連携で達成できる。ネットワークの応用範囲は市民の参加により拡大していく。盗難自転車の発見、犬・猫のペット監視、障がい者支援、児童の交通事故防止・安否確認が容易になる。

検討すべきことがある。それは実験に参加する市民の位置情報をどう扱うかだ。ICTによる社会の発展を議論するとき(1)社会の利便性(自由さ)(2)社会の安全性(3)個人のプライバシーの保護――という3つの価値が対立しやすい。

安全性を追求すればプライバシー保護を緩めなければならない場合がある。街角の防犯カメラがその象徴だ。3つの価値を高いレベルでバランスさせたい。

技術、法律・社会制度、市民のプライバシー意識を相互に連携させてデータの運用管理に対するコンセンサス(合意)を形成する必要がある。どのようなコンセンサスになるかは市民が感じる価値で決まる。「市民参加の実験」が大事だ。

私はイノベーションとは「課題発見とデザイン、そして実験」のプロセスであると信じている.その観点で見れば、地方創生は「都市を舞台とした市民による市民のためのイノベーションへの挑戦」だと理解できる。ICTを利活用できる人材を育てながら、市民が行政や企業と一体となり、地域の社会問題を解決して自らの生活の質を高めることが大事だ。

都市がイノベーションの場になる。

[日経産業新聞2016年4月21日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]