エコノミー症候群、厳戒 医師ら「体動かして」
足などの静脈に血栓ができ、突然死のリスクもある「エコノミークラス症候群」に陥る人が被災地の熊本県で出始めた。余震への恐れから狭い車内で寝泊まりしていることが要因とみられ、19日には同症候群による死者も今回の地震で初めて判明。深刻化する事態に、各避難所では医師やボランティアらが診察や注意喚起に懸命だ。

「大丈夫ですね」。避難所となった熊本県益城町の町立広安小学校。19日午後、熊本市民病院(熊本市)の医師がエコー(超音波診断)装置を被災者のふくらはぎ付近に当て、血栓の状態を確認していく。異常なしと診断された宮本和子さん(68)は「不安だったのでほっとした」と胸をなで下ろした。
同症候群に詳しい新潟大大学院の榛沢和彦講師が同日現地入りし、診察を助言。車中泊の被災者12人を診察した結果、うち8人は血栓ができやすい状態になっていたことが判明した。同講師は「水など物資の供給が遅れ、発症例が増えているのではないか」と危惧する。医師らは血流を改善する弾性ストッキングを被災者へ配って回った。
九州地方では14日以降、震度1以上を観測する地震が600回以上発生。熊本県合志市の女性(63)は自宅が一部損壊し、市内の駐車場に止めた車に5日続けて寝泊まりしている。「足のだるさを感じるが、次の地震で家が潰れるのではという恐怖心が強い」という。避難所の周囲の目を気にして、車に泊まる子供連れの家族も少なくない。
こうしたなか、18日に死亡した熊本市西区の女性(51)を含め、同症候群と診断される人が続出。済生会熊本病院(熊本市)では19日までに搬送された30~70代の10人のうち、3人は一時意識不明の重体となり、西上和宏医師は「命の危険に関わるケースが多く、深刻な事態だ」と指摘する。
「エコノミークラス症候群にならないよう体を動かしましょう」。約1200人が避難する熊本県立東稜高校(熊本市)では19日午後、ボランティアが駐車場や体育館にいる被災者に呼びかけ、校内放送でラジオ体操を流した。同症候群による犠牲者が出たことを受け、急きょ始めた対策だ。
横になっていた人も立ち上がって体を伸ばし、熊本市の登原桂子さん(85)は「音楽が流れれば自然と体も動く」と笑顔。福岡市民病院(福岡市)から派遣され同校を巡回した平川勝之医師は「水分補給や軽い運動など、エコノミークラス症候群の予防を徹底していきたい」と話した。