LINEモバイルの衝撃 「メッセンジャー」が主役に?
(徳力基彦)
今の若者はスマートフォン(スマホ)で何でもできるから、逆にパソコン(PC)が使えない人が増えているそうだ。今後はそれどころではなく、LINEのようなスマホのメッセンジャーアプリが中心になって、メールや電話すら使えない世代が増えてくるかもしれない。

皆さんは笑い話と思うだろうか。実は今年に入って、そんな未来があり得ることを予感させるニュースが次々に話題になっている。
日本で象徴的なニュースは、先月LINE(東京・渋谷)が発表した月額500円からの格安スマホサービス参入だろう。この「LINEモバイル」では、LINEによるチャットや通話は使い放題と明言され、大いに話題になった。
これまでも楽天モバイルなど、ウェブサービス事業者による格安スマホサービスが展開されており、LINEの参入は後発といえる。ただ、日本のメッセンジャー市場を独占しつつある事業者の参入によるインパクトは決して小さくない。
従来はあくまで「スマホ」が主役で、ユーザーが好きなアプリを選んで利用する。料金体系も「電話」と「パケット」の二つを軸に組み立てられるのが普通だ。電話のかけ放題やパケット定額などが象徴だろう。それがLINEモバイルでは、まずLINEが使い放題という「メッセンジャー」の利用を軸に料金体系が考えられている。
利用者が携帯電話サービスを選択する基準を、スマホの各種アプリや電話中心という価値観から、メッセンジャー中心に変えてしまう可能性を秘めているのだ。
同様の変化はグローバルでも始まっている。象徴的なのは月間8億人もの利用者がいるといわれる「フェイスブックメッセンジャー」が「ボット」というメッセンジャー用のアプリ配信マーケットを開設する可能性が高い点だ。
なにしろフェイスブックメッセンジャーの利用者数は、LINEの4倍近くに相当する。アップルがiPhoneアプリの配信マーケットを開設したよりも、大きなインパクトがあるのではないかと予測する人もいる。

呼応するように、マイクロソフトは3月の開発者向けイベントで、メッセンジャー向けのボット開発を支援すると表明。無料通話ソフトのスカイプやメール、携帯電話のSMSなどと連携したボット開発環境を発表した。LINEも、発表会の席上で開発環境を一部オープン化していくことを宣言している。
世界の注目が、スマホのアプリから、メッセンジャーのボットに移っている。つまり今後のスマホ利用者はスマホアプリのマーケットからアプリを選択するのではなく、メッセンジャーのマーケットからボットを選択する可能性が出てきているわけだ。
実はこれと同様の変化はPCでも存在した。昔のPCは購入してから一つずつソフトウエアをインストールしていたのを覚えているだろうか? それがウェブ時代になりブラウザー一つあればポータルや検索サービス経由で様々なサービスが利用可能になった。PCのデスクトップから、ブラウザーやポータルに利用者の入り口が移ったのだ。
同様にスマホではメッセンジャーが君臨する可能性が見えてきている。この「メッセンジャーシフト」とでも呼ぶべき現象は、企業のマーケティングにも大きな影響をおよぼすかもしれない。ぜひ注視していただきたい。(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
〔日経MJ2016年4月8日付〕