スマート社会計画「ソサエティー5.0」、肝はデータ
「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター 新井紀子

2016/4/12 6:30
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内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)は日本の科学技術政策の司令塔だ。このほど「第5期科学技術基本計画」を作った。

あらい・のりこ 一橋大学法学部卒、米イリノイ大学大学院数学科修了。理学博士。2006年より国立情報学研究所教授。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを兼務。

あらい・のりこ 一橋大学法学部卒、米イリノイ大学大学院数学科修了。理学博士。2006年より国立情報学研究所教授。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを兼務。

科学技術基本計画は1995年に施行した科学技術基本法に基づき、5年ごとに改定する。第5期は2016年度から20年度までとなっている。

第5期のキャッチフレーズは「Society(ソサエティー)5.0」だ。人類がこれまで歩んできた「狩猟」「農耕」「工業」「情報」に次ぐ第5の新たな社会を、技術革新(イノベーション)によって生み出すという。

人工知能(AI)、莫大な情報を分析して傾向を見いだすビッグデータ解析、ロボット、材料。これらの開発などに研究費や人材をつぎ込み、技術を組み合わせて新たな製品やサービスを生み出す。電力計がスマートメーターになったように、単なる計測装置にすぎなかった機器が今やコンピューターの性能を有し、インターネットに接続する。膨大な情報を機器同士がやりとりする。

そこに自動的に集積していくデータを賢く使うことで、人間知だけでは到底実現できない超スマートな社会を実現していく――。このような気宇壮大な計画がソサエティー5.0だ。現在、それを実行に移すべく、さまざまな専門会議で議論をしている。

私が参加しているシステム基盤技術検討会では、その実現のための基盤となる仕組みを検討している。例えば、3次元地図情報。全地球測位システム(GPS)の盲点となっている地下街の地図も含めて、機械可読(機械が意味を理解できるよう)な地図情報を整備することにより、震災やテロの中でも、スマートフォンや電動車椅子を通じて人々を安全に誘導することが期待されている。

この話を動かすための肝は何か。つい技術革新に目が向かいがちだが、それよりも大切なことがある。それはデータである。出発点になるデータが集まらなければこの話は絵に描いた餅になる。

集まってきたデータは、人ではなく機械に処理させるので、機械可読な形式に整っていなければ意味がない。つまり、データの量と質を確保できるか否かに、この計画の成否がかかっているのである。

データを持っているのは誰か。大企業から、個人や中小企業、農家まで多種多様なプレーヤーが関わってくる。どうすれば彼らに協力してもらえるだろうか。

私にはこんな経験がある。

東日本大震災の際、被災地の学校支援をしていた私は、驚くべきことに気づいた。なんと文部科学省が、学校の名前・所在地・電話番号・校長名・耐震補強工事の状況のデジタルデータを持っていなかったのである。

どの学校が耐震補強をしないまま震度6強の揺れに見舞われたのか、在校生は何人か、調べようがなかった。誰もが信じ難いというが、本当の話だ。

学校だけではない。保健所、空港、港湾、道路、下水道などのデータも、基本的には設置者である地方自治体が管理している。中央省庁は生データをリアルタイムで把握する仕組みになっていないのだ。

防災・テロ対策・感染症対策・観光振興等の上で不可欠なデータたちは、地方自治体のパソコンの中で眠っている。

まず隗(かい)より始めよ、である。

もし霞が関が地方自治体を説得し、公的データを機械可読な形式で公開できたならば、ソサエティー5.0はグンと現実味を帯びるに違いない。それができずに、個人や中小企業にデータを出してくれ、では本気度が疑われる。

霞が関の奮起に大いに期待したい。

[日経産業新聞2016年4月7日付]

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