春秋

2016/3/27 3:30
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春の心は、落ち着かない。天気の移ろいにそわそわする。桜の咲きようが気にかかる。亡くなった作家、夏樹静子さんも毎年、いつが満開かと、やきもきしたという。「小さな雨風にも心を悩ませ、木々の様子を見守るのも、またせつない楽しみ」と随筆に書いている。

▼日々のちょっとした悩みを描くことから始めた。結婚を機に東京から移った福岡の団地で、ペンを走らせた。ミルクの匂いの残る手で、母と子、育児や主婦の暮らしを素材に書いた。平凡に見える日常に潜んでいる怖さやゆがみに着目した。代表作「Wの悲劇」など数々の作品が映像化され、ミステリーの女王と呼ばれた。

▼殺人事件を描くうちに、社会が家庭に及ぼす影響の大きさを痛感する。人工授精や認知症など社会的なテーマにも取り組むようになる。法曹関係者との接点が増え、六法全書を読んで、こんな面白い世界があるのかと目を開かれた。できれば、検事か弁護士になりたい。そんな憧れが検事霞夕子などの主人公を生み出した。

▼原稿をお願いした縁で手紙をいただいたことがある。中東などでの平和構築活動を調査した研究者を応援してほしいとの依頼だった。犯罪だけでなく国際紛争も家族の日常を脅かすとの思いがあったようだ。核戦争に備える近未来小説も書いている。ささやかな喜びを奪う恐怖に向ける、主婦のまなざしはいつも鋭かった。

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