SNS写真、プライバシーどう守る 防衛用メガネも
(国立情報学研究所教授・越前功氏)
一般消費者による、ウェブ上への画像投稿は増えるばかり。企業もその動きを無視できない中で、意図しない形でのプライバシー侵害などのリスクも高まっている。企業や消費者は新たなデジタルツールとどう向き合うべきか。国立情報学研究所の越前功教授に聞いた。
――禁止が常識だった小売店の店内撮影を、解禁する動きがある。
「消費者の利便性などに配慮した動きだと思うが、デジタル技術の進歩で多くの人が想定していないリスクが生まれていることは認識すべきだ」 「他人が撮った写真に自分が写り込んでいたとする。顔認識技術の向上により、それを見た第三者がネット上の画像情報や交流サイト(SNS)の個人情報と付き合わせることで、自分のことを全く知らない人間がそれが自分だと特定することができる。さらに画像に位置情報などが付随していれば『私がいつどこで誰といたか』が、他人に知られる」
――防ぐためにはどうすればいいのか。
「一般の人ができることは限られる。まずは画像を投稿する際に、不要な写り込みに関しては特定できないように加工を施すこと。また、位置情報などの付随情報も消しておくのが無難だ。被写体から事前に許可を取ることも重要になる」
「だがスマートフォン(スマホ)のユーザーらには、画像加工のやり方が分からない人も多い。被写体全員に許可を取ることが不可能なこともあるだろう。投稿者が気づかないような重要情報を含んだ写り込みもあり、投稿側だけで完全な対策は難しい」
「そのため、被写体側が自己防衛できる仕組みも必要だ。当研究所は福井県鯖江市などと共同で、監視カメラやデジタルカメラの顔認識機能の対象にならないようにする、世界で初めてのメガネ型機器を開発した。6月に発売する。あらゆる場所にカメラやセンサーがある今、個人が自分の意思で対策を講じられる意味は大きい」
――普及には社会全体の意識改革が必要だ。

「日本のプライバシー意識は欧米に比べ低いと言わざるを得ない。先ほどのメガネも、発表後の反響は国内より海外のほうが大きかった。子どもの画像に関するものを中心に、様々なプライバシーの啓発活動はあるが十分とは言えない」
「2020年に開催される五輪では様々なプライバシー意識を持つ人が世界各国から来る。高解像度技術を使った監視カメラは100メートル先の人物の顔を認識できるとされる。日本ではこれは安全技術として大きく問題視されていないが、100メートル先の人物に撮影していることをどうやって告知するかといった課題もある。様々な問題が今後顕在化するだろう」
――技術の進歩は今後も進む。
「動画の画像や音声を加工することで、インターネット会議システムで別人になりすますことなどもできるようになっている。他人の顔の画像をごく自然に動かせるので、肉眼ではまず気づけない。画像の精度が上がり、写真に写った親指から指紋情報を復元することなどでも成功事例がある」
「こうした技術の多くは悪意なく開発されている。だが、悪用しようと思えば大きな脅威になる。いかなる防衛手段を持つか、『攻め』の技術研究と同様に『守り』の研究も進めなければならない」
(聞き手は中川雅之)
〔日経MJ2016年3月18日付〕