通行人を分析、最適な広告を表示する「AI広告」
藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

2016/3/10 12:00
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最近「5年後、ロボットやAI(人工知能)の発展の影響で、雇用がどれくらい失われるか」「どのような職業がコンピューターやロボットに奪われるか」といった近未来予測が目につく。

エムアンドシーサーチの電子看板は、より注目度の高い広告表現を自動的に学習(ロンドン)

エムアンドシーサーチの電子看板は、より注目度の高い広告表現を自動的に学習(ロンドン)

一般的に、定型的な職種はロボットやコンピューターへの置き換えが進む。画家や作曲家など創造的な職種、あるいは一人ひとりのニーズや状況をきめ細かく把握しなければならない医師やコンサルタント、弁護士らは「失われない職種」と目されているようだ。だが、最近の技術の進歩をみると、必ずしもそうだと言えなくなっている。

たとえば、歌詞を入力し、ジャンルの指定などをすれば、自動的に楽曲が創造されるという研究が日本で進んでいる。米国ではユーザーが投稿した動画に、AIがバックグラウンドミュージックを自動的に作曲するサービス「ジュークデッキ」をベンチャー企業が提供している。アマチュアの手によって大量の動画が撮影・制作される時代だ。著作権に抵触しない楽曲のニーズは供給が追いつかないほどある。

小説作品を自動的に執筆する技術も、国内外で開発が進んでいる。ニュースを執筆するロボットについては、本連載「『ロボットジャーナリズム』 多品種少量の記事、現実に」(2015年7月6日付)でも触れた。

ロボットによるベストセラーが誕生するといった現象はあっても、おかしくないと筆者は思う。だが、そこまでいかなくても手間のかかる創造的な表現を、一人ひとりの消費者に向けてふんだんに届ける。そのためのAIやロボットの利用には可能性が開かれる。

面白い例がある。グーグルをはじめとする先進的な大手企業を多く取引先に持つ広告代理店のエムアンドシーサーチは、歩行者に最適な広告を自動的に学習する街頭看板を、ロンドンのオックスフォード通りに設置している。

電子看板は、液晶表示画面と複数名の歩行者の視線を捉えるカメラとソフトウエアを備えている。宣伝文とイメージ画像を組み合わせて表示し、通りかかる歩行者の視線をどれくらい長くひきつけられるか計測。注目度(視線がひきつけられている時間)が長くなるよう、学習して広告の表現を洗練させていくわけだ。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

同社は大型看板でも新機軸を展開している。オーストラリアの高速道路に大型の液晶看板を設置し、通りかかる自動車をカメラで自動認識している。「そこの白いベンツさん、これが新しいレクサスですよ」といった文字と、新型車のビジュアルを組み合わせた広告をすばやく表示する。天候や道路の混み具合によって広告の表現が変化していく。

既にウェブ上のメディアや広告には、そのような技術が実際に利用されている。あるメディアは公開する記事に、記者や編集者があらかじめ多数のタイトルを登録しておく。記事の公開後は、タイトルの中で最も読者からのアクセスが多かったものを自動的に見つけだすような仕組みを採用している。

今後はAI自らが一人ひとりの読者に向けて、優れた表題、キャッチコピーなどを生成することにもなりそうだ。創造的な能力のロボット化は、このような大規模な個人向け最適化(マス・パーソナライゼーション)に適用されるだろう。

[日経MJ2016年3月7日付]

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