夫婦間のLINE盗み見 犯罪になる一線
タレントのベッキーさんのものとされる無料対話アプリの通信内容が流出した騒動から約2カ月。ついに運営会社のLINE(東京・渋谷)が原因とみられる仕様を変更する事態に至った。そもそも他人のLINEを盗み見することは犯罪やプライバシー侵害にならないのか。弁護士ドットコムの経営企画部長で弁護士の田上嘉一氏に聞いた。

――他人のLINEを勝手に見ることは犯罪になりますか。
「刑法には信書開封罪があるが、LINEは紙でないため該当しない。また不正アクセス禁止法はコンピューター・ネットワークにアクセスして情報を盗む行為を対象としている。他人のIDとパスワードでネットワークにアクセスする場合は該当するが、スマホの画面を見るだけでは対象にならない」
――LINEにもアプリにパスワードを設定する機能があります。
「他人のID・パスワードでネットワークにアクセスする行為は、不正アクセス禁止法で3年以下の懲役、100万円以下の罰金と規定されている。夫婦が浮気を調べるために相手のLINEにアクセスした場合なども不正アクセス行為に該当する」
――今回の騒動はスマホの通信内容などを別のスマホで再現できる「クローン携帯」が原因とみられています。
「クローン携帯はパソコンにバックアップしたスマホのデータを別のスマホに復元して作る。ネットワークにアクセスしていないので不正アクセス行為には該当しない。クローン携帯を作ると、その後に新着メッセージも届く。この場合はネットワークにアクセスしていると言えるので、不正アクセス行為に該当する」
――他人に通信内容を見られるのを嫌だと感じる人は多いのでは。
「民法上のプライバシー侵害に当たるのは間違いない。民事裁判でプライバシー侵害を訴えることはできる。ただ、夫婦間で浮気などを心配して見る場合はプライバシー侵害の度合いが低い。損害賠償は認められないか、認められても低い金額になるだろう」
――不正に入手した情報は離婚裁判などで証拠として認められますか。
「認められる可能性が高い。刑事訴訟では違法な手段で入手した証拠を認めない原則があるが、民事訴訟では入手手段の厳格性は刑事訴訟ほど求められない」
――週刊誌など第三者に情報提供することは問題になりませんか。
「やはりプライバシー侵害に当たる。自分だけが見るのと違って、週刊誌に掲載されることでプライバシー侵害の度合いが大きくなる。その場合、情報提供者と出版社の共同不法行為となる可能性がある。だが、一般人と公人ではプライバシー侵害の基準が異なる。報道の自由とプライバシー保護のバランスを考える必要がある」
複数端末からアクセス不可に LINEが仕様改良
無料対話アプリのLINE(東京・渋谷)はこのほど、米アップルのiPhone(アイフォーン)の複数の端末からアクセスできないように仕様を改めた。iPhoneにはデータの消失に備えてパソコンにバックアップする機能がある。記録したデータを別のiPhoneに移すと、全く同じ情報を持った「クローン携帯」が生まれる。
これまでLINEはクローン携帯を同じ端末と認識し、情報を閲覧できる仕様になっていた。(聞き手は村松洋兵)
[日経MJ2016年3月2日付]