2018年11月14日(水)

春秋

2016/2/29 3:30
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前衛書道のパイオニア的存在だった上田桑鳩は1955年、日展を脱退した。4年前に出品した作品に対し、主催者の側から「これは書なのか」といった非難の声が届いていたため、抗議の意思を表明したらしい。よくある革新と伝統の対立が火を噴いたといえようか。

▼物議をかもした作品の題名は「愛」。実際に目にすると、漢字の「口」に見える形が3つピラミッド型に置かれている。あえて似た文字をあげれば「品」だ。それがなぜ「愛」なのか。伝えられるところでは、お孫さんがハイハイするイメージを書にしたとか。なるほど前衛だ。保守的な人たちの神経を逆なでしただろう。

▼本紙にとって桑鳩は、ひとかたならぬ縁のある書家だ。このページの右上の隅にある「日本経済新聞」の題字は彼の手になる。登場したのは1946年3月1日だから、明日でちょうど70周年を迎えるわけだ。それはまた、日本が敗戦後の混乱から立ち直ろうとするなか、紙名を変え再出発を果たした本紙の歩みでもある。

▼この題字を見ていると、中国に発する書道の伝統を桑鳩がわがものにしていることを、強く感じる。だからこそ、前衛の極みともいうべき「愛」という作品が生まれたのではないか。歴史と伝統の上にたって新たな境地を切り開く。芸術にかぎらず求められる姿勢だろう。そんな思いを胸に、71年目へと足を踏み出したい。

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