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福島廃炉、先見えず 溶融燃料搬出あと5年

東日本大震災で冷却機能を失い、大事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所は、放射性物質で汚染された水の処理に悩まされながらも廃炉作業が進む。最難関となる溶け落ちた燃料(デブリ)の取り出しの準備が今後、本格化するが、原子炉内の状態を正確に把握するのは難しく、方法も定まっていない。先の見通せない挑戦が続く。

「原子炉にカメラを入れるのは難しくない。問題は高い放射線量にやられてしまうことだ」。日本原子力研究開発機構の小川徹・廃炉国際共同研究センター長(長岡技術科学大学教授)はうなる。福島第1原発1~3号機ではデブリが原子炉圧力容器の底を突き破って格納容器に達したとみられる。

確認ままならず

デブリは冷やすために注入を続けている水につかっているはずだ。1号機の配管などを通す格納容器の壁面の穴からカメラ付きのロボットを入れて確認を試みたが、濁った水に遮られて見えなかった。今後は格納容器の上方から遠隔操作でカメラを垂らし、水中に入れて近くでデブリの撮影や放射線量の測定などをめざす。新たなロボットなどの実用化に時間がかかるため「(デブリを見るまでに)1年くらいかかるだろう」と小川センター長はみる。

今のところ、デブリの取り出しを2021年までに始める計画に変更はない。原子力機構は国の委託プロジェクトなどに参加し、デブリの状態を推定しようと研究を急ぐ。核燃料の成分や被覆管などの材料が高温で溶けて混ざり合ったときの反応を原子炉内の条件を変えて計算している。

小指大の「模擬デブリ」を数十通りも作っており、構造や固さ、変形しやすさなどを調べて計算の改良や工具の選定を進める。大型の模擬デブリ実験装置を持つフランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)とも協力する。

デブリ取り出しの工法はまだ決まっていない。放射性物質の拡散リスクを最小にするため、格納容器を水で満たす冠水工法を検討しているが、事故で開いた穴を防ぎきれない場合は難しい。水を張らない工法も選択肢に加えた。

貴重なデータに

福島第1の作業拠点、Jヴィレッジと国道を挟んで向かい側には昨年、原子力機構の楢葉遠隔技術開発センターが発足した。試験棟内には、格納容器下部にある圧力抑制室の一部の実物大模型がある。材質や形状は2号機と同じだ。これを巨大水槽で覆い、冠水工法の手順を決めるのに役立てる。水圧に耐えられない部分がないか、どう補強するかなどを検討する。

原子力機構は福島第1に隣接する大熊町に、取りだしたデブリを持ち込み性状などを分析するセンターを17年度に開設する。富岡町では今年度、廃炉国際共同センターの国際共同研究棟も運用を始める予定だ。

ただ、被災した周辺自治体にできるだけまんべんなく拠点を置く「政治の力」が働いたという声も聞く。機能が複数の町に分散し、設備投資の重複などの無駄や、研究効率の低下につながる懸念もある。東京大学の岡本孝司教授は「専門ごとに分かれず、全体をシステムとしてとらえて総合的なリスク管理をすることが必要だ」と訴える。

政府・東電は廃炉の工程表(ロードマップ)を随時見直す。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)はそのための新たな技術戦略を立てる。東電福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は「一緒に議論し、作業の制約条件などをしっかり伝えていきたい」と望む。

廃炉期間は30~40年と長く、工程表は今後大きく修正されるかもしれない。それでも福島第1の経験はすべて今後に生かせる。廃炉の過程で得られるデブリ、周辺の放射線量などのデータは事故原因の詳細な分析に使える。失敗や予想外の出来事の詳しい記録も、寿命を迎えた他の原子炉の解体などに役立つはずだ。原子力の信頼回復のためにも欠かせない作業となる。

立ちはだかる汚染水

福島第1原発では、大量の地下水が原子炉建屋付近に流入し、汚染水が増え続けている。

「地下水がきちんとせき止められているのを確認できる」。2月9日、福島第1原発を訪れた際、原子炉建屋の海側の遮水壁近くの水たまりを前に東電の担当者は胸を張った。足元に迫る水には驚くが、海には流れ込んでいない。汚染された大量の水が海に出る危険はひとまず遠のいた。

だが油断はできない。遮水壁によって行き場を失った地下水をくみ上げて浄化してから海に排出しようとしたところ、想定を上回る汚染が見つかった。一部を大量の放射性物質がある原子炉建屋に戻さざるをえず、結果的に新たな汚染水をつくりだしてしまう。

東電が解決策として期待するのが凍土壁だ。建屋を取り囲むように、セ氏マイナス30度の特殊な液が通る1500本の管を埋め込み、土壌を凍らせて地下水を食い止める。政府が345億円を投じ、設置工事を完了した。現在は一部が試験稼働中で、配管のバルブ付近に空気中の水蒸気が白く凍り付いていた。

原子力規制委員会は凍土壁の効果で地下水位が下がると建屋から高濃度の汚染水が外に出る恐れがあると、稼働に待ったをかけた。東電は地下水位が下がりすぎないよう外から水を注ぎ込む装置を動かしたり、ポンプで建屋から水を抜いたりできると対策を説明する。

汚染水対策では過去に何度も失敗があるだけに、規制委の目は厳しい。放射性物質除去装置の不調や水漏れ、浄化しても海に放出できない大量の水を保管するタンクの増設など「もぐらたたき」と皮肉られるほどだった。東電の増田氏は「もともと発電の仕事をしていたので、汚染水の重要度が高まっても感覚がすぐには切り替わらなかった」と初期の対応を振り返る。

福島第1原発には、水を移送する配管や電力ケーブルがどう敷設されているかを示す詳細な図面すらない。増田氏は16年を「基盤整備の年」とし、こうした図面の作製を急ぐ。配管の継ぎ目やネットワークが一目でわかれば、建屋内や地下水の水位を精度良く調整しやすい。問題発生時にどこを直せばよいかなどを素早く判断でき、操作ミスの防止にもつながるとみている。

(編集委員 安藤淳)

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