店舗の誘客、デジタルが主力 スタッフ自ら情報発信 - 日本経済新聞
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店舗の誘客、デジタルが主力 スタッフ自ら情報発信

(藤元健太郎)

店舗を持つビジネスにとって顧客とのコミュニケーションは店員の接客か雑誌、新聞折り込みチラシなどを活用するしか方法が無かった。だが、デジタルデータとして現場のきめ細かな情報を届ける取り組みがようやく広がってきた。

比較的進んでいるのはアパレル業界だ。もともと店員が好きだからあの店で買うという顧客が存在する世界だからだろう。ソーシャルメディアでスタッフも発信力をつけている。自分のお気に入りの新作スナップや独自のコーディネートの写真を投稿し、顧客とのコミュニケーションに生かしている。

現場の発信力が高まる中で注目されているのが、アパレルウェブ(東京・中央)がアパレル企業向けに提供している「スタッフスナップ」だ。様々なブランドの店員のコーディネートが見られるアプリだ。

現在300ブランドが参加しており、スタッフの投稿情報を電子商取引(EC)サイトに掲載したところ、売上高が30%増えた事例もある。ギャップなど幾つかのブランドでは、スタッフスナップの投稿写真にどれだけの利用者がアクセスしたかを店員の人事評価に反映している。

ファッション誌の影響力が低下している今、顧客とのコミュニケーションは店頭での接客だけでなく、サイバースペース上でもしっかり行うことが欠かせない。

一方、食品スーパーは新聞の折り込みチラシが何よりも重要なツールだった。だが、デジタルツールを使い売り場の情報をリアルタイムに発信できるようになったことで、アパレル同様現場からの発信が相次いでいる。

ネットイヤーグループ(東京・中央)が始めた「ぽぷろう」は食品スーパーの店員がPOPを簡単に投稿できるアプリだ。セブン&アイ・ホールディングス傘下の高級食品スーパー、シェルガーデン(東京・千代田)が導入したところ、アプリのダウンロード数は3カ月で池袋店が2100超、東戸塚店が1900超となった。

店員が投稿するPOPには、常に100を超える「いいね!」がつき、1日の「いいね!」総数は1000以上にのぼる。顧客のエンゲージメント(関わり合い)はとても高いと評判だ。「LINE@」などはこれまでの本部主導の発信だったが、ぽぷろうでは店舗主導で売り場のスタッフが工夫を凝らす。現場からは「店内でアプリを見ながら顧客が会話をしているのを見て、顧客をもてなしている実感が湧く」との声が上がっている。

ネットとリアルが融合するオムニチャネル時代において、このように現場スタッフが自ら考えて情報を発信し、顧客をもてなすことが店舗の存在意義にもつながる。商品を安く早く提供するだけなら、いくらでも便利なECサイトは存在する。

これまで既存店売上高の伸び率ばかり気にしてきた小売店は、店を継続的に利用して利益に貢献してくれるファンをより大切にしなければならない。そのためにも、現場がファンの顔を思い浮かべながら、情報を発信していくことが重要だ。

将来的には、店舗の売れ筋情報や調理実演やファッションショーなどの店頭イベントもライブ動画で見られるようになる。発信力をつければ店員の目線で、今から急いで来店しなければ損すると顧客に感じさせることもできるようになる。

消費者が求める情報を持っているのは本部ではなく、現場なのだ。

(D4DR社長)

〔日経MJ2016年2月12日付〕

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