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消費者はもう我慢できない 「素早い表示」不可欠

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

「オンデマンド経済」という用語を目にすることがあるだろう。文字通りに解説すれば、消費者の要求があったときに、迅速に、必要なだけ届ける(あるいは、使っただけ支払う)ようなビジネスがそれに当たる。

英フィナンシャル・タイムズはウェブサイト表示を劇的に高速化するプロジェクトを推進中だ。

オンデマンド型ビジネスの対極は、たとえば、一人暮らしでは食べきれない大きな野菜を丸ごとでなければ販売しないスーパーだ。見るとも思えないチャンネルを抱き合わせて契約させる衛星放送、あるいは、予約や行列が必至な役所や銀行、病院などもそうだ。

アマゾンは物品の購入をボタン一つクリックへと簡略化する一方、即日配達網を広げ、欲しい時と入手の時を近づけようとしている。また、アップルは、欲しいと思った瞬間にアプリをダウンロードし、休日や夜中であろうとすぐに利用できるようにした。

アプリは以前は、パッケージを店舗または電子商取引(EC)サイトから入手し、自分でインストールする必要があったが、いまでは多くの人々が忘れてしまっている。

今後は規制の少ない領域では急速に、種々の規制に縛られて(守られて)いる金融や医療、そして教育などの領域では徐々に、オンデマンド経済が従来の常識をくつがえしていくだろう。

消費の現場におけるオンデマンド化の進展は消費者の価値観を大きく変えようとしていると、筆者は見る。特に注意を払うべきなのは、待たされることにおける「ストレス耐性」の低下だ。欲しい時に得られる「待ったなし」の体験が広まってきたからだ。

昨年末、ソフトウェア大手のアドビが日本を含む先進6カ国の「コンテンツの現状・ユーザーとの絆におけるルール」というレポートを発表した。ユーザーがインターネットで情報を得ようとする際に、どのような振る舞いをするかを総合的に調べたものだ。

興味深いのは、どの国のユーザーも「長すぎる」や「表示に時間がかかる」情報に対して非寛容だということ。「長すぎる」「(表示が)遅い」場合は「見るのを止める」「端末を切り替える」とする回答が多い。我慢して表示を待つ「そのまま」派は3割程度にすぎない。

むろん、表示端末を切り替える間に、その情報から離れてしまうリスクがある。メディアであれば、読者を失うことに、ECサイトであれば、取引そのものを失うことへつながりかねない。

筆者が携わるニュースアプリでも、昨年ぐらいから記事を瞬時に表示する機能を選択するユーザーが急増している。「フィナンシャル・タイムズ」はページ表示に従来14秒もかかっていたのを、1秒以内にするプロジェクトを推進中だ。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

サイトを訪れてから内容が表示されるまでに8秒以上かかると、ユーザーは他に行ってしまう「8秒ルール」などといわれてきたが、その限界が年々短くなっている。

「消滅に向かうかバナー広告 広がる表示拒否ソフト」(日経MJ・2015年10月5日付)でも触れたが、メディアのサイトに埋めこまれている広告に関連するプログラムが、コンテンツの表示を遅くしている理由の1つだ。読者が広告表示を止めるプログラムに走る危険がある。

今後、多くのビジネスは一様に「スピーディーに情報を表示しなければ」との圧力にさらされることを覚悟しなければならない。自分が日ごろ消費行動においてどう振る舞っているかを振り返れば、おのずと理解できるはずだ。

[日経MJ2016年2月8日付]

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