「コンコルドのジレンマ」避けよ 撤退に基準を - 日本経済新聞
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「コンコルドのジレンマ」避けよ 撤退に基準を

ブランドン・ヒル(米ビートラックスCEO)

米国は失敗を容認する文化であると聞いたことがある方もいると思う。特にシリコンバレーのような地域では、プロジェクトやビジネスを行うとき、たとえそれが失敗に終わっても、次につながるチャンスを得やすい。

これは単純にいくらでも失敗してもよいというわけではない。試してみてうまくいかないようであれば、早い段階で切り上げ、そこから学んだことを次のプロジェクトに生かす。こうした考え方が前提にある。

こちらのスタートアップ企業でよく使われる「フェールファースト」という英語の表現がある。これも「なるべく早めに失敗を経験し、成功につなげよ」という意味である。シリコンバレーでは、やらないよりやってみる、ダメであれば次に生かすという文化がある。日本と比べてみても新しいことにチャレンジしやすい。

その一方で、個々のプロジェクトに対してシビアな評価基準が設けられている。新規事業のプロジェクトを始める場合、フェーズ(段階)ごとに求められる結果と期間を設定する。その時点で想定していた結果に満たない場合は潔くプロジェクトを終了する。うまくいかなかったからといって、それにかかわっていたスタッフが罰せられることはほぼない。

シリコンバレーでは、10の新規プロジェクトを同時に走らせ、そのうち9つを終了させて最終的に残りの1つに経営資源を集中する方法を採用している企業もある。このようなプロセスが確立していると新しいビジネスを始めやすい。たとえ失敗に終わったとしても、新しいことに挑戦することによる学びは大きい。

日本企業が新規事業プロジェクトを開始するとき、スタートするまでの準備や承認プロセスなどで時間がかかってしまうことが多い。しかも進め方や評価に関してはっきりとした基準が設けられていないケースがままある。

ここで気をつけるべきなのは、どこで引くかだ。プロジェクトは続けているからといって成功に近づいているとは限らない。むしろ、時間が経てば立つほど、時間とお金を消耗するだけになってしまう場合もある。

「コンコルドのジレンマ」と呼ばれる事例がある。1962年に英仏合同で始めた超音速旅客機コンコルドを開発するプロジェクトにおいて、両国から大きな期待と優秀な人員、そして多額の予算がつぎ込まれた。1976年に初フライトを成功させたのだが、全く採算がとれなかった。巨額の損失を生み出し続け、2003年にコンコルドはすべての路線から撤退した。

実はこのプロジェクトは開発が成功しても採算が合わないことが開始直後にわかっていた。しかしプロジェクトは続行された。すでに多額の予算と人員を投入しているうえ、各国から大きな期待と注目を集めていたので後に引けない状態になっていた。合理的に考えればすぐに中止して損害を最小限に抑えられたかもしれないが、人の心理がそれを許さなかった。

今でも似たような事例は多くある。コンコルドのジレンマに陥らないようにするには、中止・撤退するための明確な判断基準とプロセスが必要になる。続けているからといって、そのプロジェクトが必ず成功に近づいているとは限らない。むしろ失敗することにより「このアイデアはうまくいかない」と発見し、無駄な予算や人員をつぎ込むことを未然に防げた点を評価すべきなのだ。

[日経産業新聞2016年2月2日付]

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