マーケは恋愛と同じ 心理学に学ぶデジタル広告 - 日本経済新聞
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マーケは恋愛と同じ 心理学に学ぶデジタル広告

ネットイヤーグループ社長 石黒不二代

テレビコマーシャルの制作には心理学の知識が欠かせない。デジタルマーケティングも同じだ。

だからと言って、そんなに難しく考えることはない。デジタルマーケティングにおける企業と顧客の関係は恋愛関係と同じ。気になるあの人に自分を知ってもらう、好きになってもらい、大恋愛の末の結婚、そして添い遂げる――というプロセスを実行するのみだ。

思い上がりかもしれないが、私が大学時代に経験した恋愛をもとに、マーケティング施策における人の心の動かし方を伝授したい。

テニスコートに急ぐ私にMさんは突然声をかけてきた。「どこに行くんですか?」。私が「コートに」と答えるとMさんは「僕はグランドです」と返してきた。

2人の行き先が隣どうしだったから会話は自然だった。Mさんは私に声をかける前に私のことを調べあげ、私がいつどこを歩くのかを知っていたようだ。

数日後、私はMさんと学食で会った。これも偶然という感じだった。私は通常であれば接点のないMさんに「たまたま」会うことを繰り返した。これは「ザイオンス効果(単純接触効果)」と呼ばれる。人は情報接触頻度が多いものほど好きになるというものだ。

ここで大事なポイントがある。Mさんが接触方法を変えて私に近づいてきた点だ。デジタル広告でも同じ内容の広告が同じ媒体で頻繁に出れば、うっとうしいと思われる。時には検索連動型だったり、フェイスブックだったりするなどして変化を付けた方がよい。

ある日、私の友人が「Mさんがあなたのことをきれいだって言っていたわよ」と私に伝えてくれた。本人から言われたら社交辞令かなと思うが、私のいないところで友人に語っていたのであれば本心ではないだろうか。私は素直に喜んだ。

これを「ウィンザー効果」という。第三者を介した情報の方が影響力を持つというものだ。テレビコマーシャルでいえば、女優さんが商品をお勧めするという部類だ。デジタルなら、友人の「いいね」をもらえるような仕掛けがほしい。

Mさんは私をランチに誘い、こう問いかけてきた。「サンドイッチ、おそば、お寿司、どれか好きなものはある?」

これは「ダブルバインド(二重拘束)」と言われるやり方だ。人は選択肢を出されるとノーと言いづらい。その人の趣味や好みがよくわからなくても、デジタル広告であれば2つの商品を提示できるメリットがある。

Mさんとの初デート。話が盛り上がってきたところでMさんは「あまり遅くなってはいけないから、また、今度ね」と私に告げた。私は次回も会うことを快く承諾した。

人はある物語を聞いてもそれが完結すると記憶が消えてしまう、中途半端に終わるものこそ記憶に残りやすい。テレビドラマでも「これからいいところ」というタイミングで「つづく」となることが多い。デジタル広告では「続きはウェブで」というテレビと連動した典型的な例がある。

Mさんが「僕はどちらかというと長女が好きなんです」と言った。私のことを調べているから言ったのだろう。私は長女であると話した覚えはないので褒められているようでうれしかった。

これは「カクテルパーティー効果」と呼ばれる。カクテルパーティーのようなにぎやかなところでも、自分の名前や自分に関連する言葉は聞き取りやすいというのがゆえんだ。「自分ごと化」ができるものは効果がある。ターゲティング広告を出すのがこれにあたる。

私がこうした法則を知っているからといって恋愛に勝利し続けているわけではない。知っていても感情が先走ってしまう。デジタルの担当者のみなさん、冷静に!

[日経産業新聞2016年1月28日付]

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