歴史の街リヨン、COP21で省エネ弾み 日本勢協力
編集委員 安藤淳
フランス第2の都市で発祥は古代ローマの時代に遡るリヨンが、環境に配慮し温暖化ガスの排出を抑えたスマートシティに生まれ変わろうとしている。欧州連合(EU)のプロジェクトと連動し日本企業も協力する。第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で合意した目標の達成へ向けた、欧州の取り組みの先行例ともなる。

「寒くはないし快適だよ」。ローヌ川とソーヌ川に挟まれたリヨンのコンフリュアンス地区西部に昨年9月オープンした「HIKARI」ビル西棟を訪れると、テナントの仏企業の社員は笑顔を見せた。南側の窓から日が入り室内は明るい。
HIKARIは主にオフィス用の西棟、東棟と居住用の南棟で構成、太陽光発電などによる発電量が消費電力量を上回る「ポジティブ・エネルギー・ビルディング(PEB)」をめざした。屋上の太陽電池パネルのほか、南棟は壁面にも太陽電池をはめ込んである。
ピーク時の出力は壁面が40キロワット、屋上が3棟合計で200キロワット。電力需要の約15%を賄い、残りは菜種油を燃料とするコージェネレーション(熱電併給)システムを使う。この熱を使った温水が天井のパイプを流れ、冬の室温を上げる。
PEBのプロジェクトはリヨン市と周辺の59区域で構成する「グラン・リヨン共同体」が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協力して進めた。NEDOから事業を受託した東芝の設計段階の計算では、3棟合計で年間のエネルギー収支はトントンだ。
東芝は3棟一括のビル用エネルギー管理システム(BEMS)と、各戸の家庭内エネルギー管理システム(HEMS)を整備した。省エネと快適さの両立を目標に日本流「OMOTENASHI」機能を取り入れた。
赤外線の人感センサーで人々の行動や集まっている場所を推定し、照明や空調を最適に自動制御する。頭脳部分のソフトウエアはクラウドに置いてあり、OMOTENASHI機能は他のビルにも展開できるという。
コンフリュアンス地区ではHIKARIを筆頭に約150万平方メートルに及ぶ大規模な改造計画が進む。欧州委員会の「スマートシティーズ・アンド・コミュニティーズ」計画にも含まれ、リヨンや周辺地域が受ける助成は2020年までに約700万ユーロ(約9億円)を見込む。

「コンフリュアンス地区東部のエコ・リノベーション(温暖化ガス排出を減らす改造)も本格化する」と関係自治体が出資するリヨン・コンフリュアンス事業体のブノワ・バルデ次長は意気込む。30年までに同地区の建物面積は100万平方メートル増えて現在の3倍になるが温暖化ガス排出量は00年水準に抑える。
新築ビルはPEBとするが、歴史的建造物は大切にしてできるだけ壊さずに省エネ化を進める。たとえばバイオマス発電による合計出力6メガ(メガは100万)ワット程度のコージェネレーション・システムを設置し、温水管で暖房用熱源を供給する。燃料にはローヌアルプ県の森林の間伐材などを利用する。
古い町並みが多いドイツやオーストリアでもエコ・リノベーション計画がある。EUの補助を活用し、企業が省エネシステムを事業化する道筋をつける。EUが思い切った温暖化ガス削減目標を出す背景には、こうした積み重ねがある。
英チャールズ皇太子の呼びかけで発足し、温暖化対策に積極的な欧米などの20社以上が参加する「ザ・プリンス・オブ・ウェールズ気候変動コーポレート・リーダーズ・グループ」のフィリップ・ジュベール会長は「(COP21の合意で)削減目標が定まり企業は行動を決めやすくなる」と指摘する。自治体と産業界の連携で、街づくりを通した「脱炭素化」に弾みがつきそうだ。
[日経産業新聞2016年1月21日付]