2019年5月20日(月)

化学反応を起こす触媒に 米西海岸流リーダーシップ
野口 功一(プライスウォーターハウスクーパース パートナー)

2016/1/22 12:00
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先日、お世話になっているクライアントである日系企業の役員と雑談した。その方は苦笑しながらこうぼやいていた。

のぐち・こういち 主に企業に対してイノベーションを起こす仕組み作りのコンサルティングを行っている。スタートアップ企業支援や地方創生支援にも取り組んでいる。海外事例にも詳しい。

のぐち・こういち 主に企業に対してイノベーションを起こす仕組み作りのコンサルティングを行っている。スタートアップ企業支援や地方創生支援にも取り組んでいる。海外事例にも詳しい。

「ビジョンや戦略を社員と共有することは重要だと理解しているので一生懸命伝えている。だが、社員にアンケートをすると『ビジョンがわかりにくい』とか『伝えてもらってない』と書かれちゃうんだよね」

以前に比べて日本企業はビジョンや戦略を重視するようになった。書店を見てもそのような本があふれかえっており、世の中への浸透度も増している。そうした本には、ビジョンや戦略を示すことがリーダーの大事な役割だと書かれている。経営の神様のような人たちや歴史上の人物になぞらえて立派なリーダーシップ理論を目にする機会も多い。

経営者は一生懸命そのようなリーダーシップを勉強し実践しようとしている。それでも相変わらず「ビジョンや戦略がわかりづらい」と言われてしまうのはなぜか。社員を同じベクトルに導くためにがんばってきたこのクライアントの愚痴を聞いて少しかわいそうに思った。

このような話を聞くと、コミュニケーションの問題だということになる。だが、そういった方法論だけではない本質的な問題がそこにはあるように感じる。私はリーダーシップへの考え方に関係があるのではないかと思っている。

シリコンバレーはカリスマ経営者をたくさん生み出してきている。成功した起業家はワンマンなイメージが強い。だが、実際には彼らはアイデアを生み出し、そのアイデアを発展させるため、非常に協調的かつオープンに仕事をしている。そしてそのような考え方をDNAとし、社内カルチャーを形成している。

イノベーションを生み出すポイントとして異分野融合がある。シリコンバレーにおけるリーダーシップは異分野融合を進めることに重きを置いている。それにはリーダーや上司が部下より優秀である必要はない。むしろ強く求められるのが異分野融合のための触媒的役割である。シリコンバレーでは「けん引していくリーダーシップ」より「化学反応を起こすリーダーシップ」がイノベーションを促進するのだ。

数十年前の米国のリーダーシップ論にも「自分より優秀な人間の活用を重点に置くべきだ」と述べられていた。日本のカリスマ経営者も強烈な個性が注目されがちではあるが、実際には自分の力を誇示するというのではなく、周囲の力を借りて上手に経営しているのである。

従来のリーダーシップとは「優秀な人が部下を引っ張っていく」というものだった。一定の能力の差がリーダーと部下との間にあるとの前提のもとに、指示する側とされる側という関係性であった。だが、それではイノベーションは起こりにくい。冒頭で述べたクライアントのぼやきも「上から下へ伝えてあげよう」と一生懸命であることに原因があるのではないか。

ビジョンや戦略を説明するよりも、その実現のために様々な社員と一緒に考える場を提供する。関連がなさそうな情報や人材を提供して刺激を与えたり、異分野融合のファシリテートをしたりする。「仕事をさせる」のではなく「仕事をつくってあげる」のである。

「俺についてこい」といったけん引型リーダーシップから日本は脱却しなければならない。オープンな仕事場を用意し、自由に遊ばせるような環境を整えるカタリスト(触媒型)リーダーシップを目指してみてはどうだろうか。

[日経産業新聞2016年1月19日付]

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