新たな時代の「追いつき追い越せ」へ - 日本経済新聞
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新たな時代の「追いつき追い越せ」へ

2016年、新しい年があけた。日本経済は景気回復基調にあるものの、力強さに欠け、企業マインドも消費者心理もすっきりしない。将来に対する不安をぬぐい去れないためだ。世界的な競争に打ち勝ち、生き残っていくにはどうしたらいいのか。1歩、前に踏み出す道を考えたい。

ズレた自画像ただす

まず大事なのは、おのれの姿を正確に知ることだ。というのは、思い描いている日本の自画像がズレているのではないかと考えられるからだ。こびりついている世界第2の経済大国の残像の修正からはじめる必要がある。

国際通貨基金(IMF)がまとめている国別の1人当たり名目国内総生産(GDP)の統計がある。それをみると、がくぜんとする。14年、日本は世界で27位に沈んでいるのだ。東アジアでは香港に抜かれ、4位になってしまった。その上にはシンガポール、ブルネイがランクしており、韓国がすぐ後の30位に迫ってきている。

1990年代半ばには3位を維持、90年代を通じてずっと10位以内だった。アジアではもちろんトップ。00年代に入ってから10番台になり、あっという間に20番台に転落した。

もちろんGDPがすべてではないが、もはや日本は世界の中位国でしかない。

ちょっと違う角度から、もうひとつのデータを見てみよう。世界銀行がまとめているビジネス環境ランキングがそれだ。税制や資金調達、電力事情など10項目を分析してビジネスのしやすさを順位づけているものである。

安倍内閣は13年6月に発表した成長戦略で、20年までに先進国で3位以内になるとの目標をかかげた。ところが16年版では前年より順位を4つ下げて34位になってしまった。改革は進むどころか他国との比較でむしろ後退している現実がそこにある。

なぜこんなことになっているのか。相変わらず高度成長期の成功体験の記憶にしばられて、グローバル化とIT化という時代の流れに乗り切れないことがある。少子高齢化はどんどん進んでいるものの、多様な人材の活用はなかなかはかどらない。縮む経済に歯止めをかけるための政策も時間軸の短いものしか実現できずにいる。

そこでひとつの方法として、欧州に範を求めてはどうだろう。例えばスイスと日本は「資源がない」「自国通貨高に長年悩んだ」などの共通点が多いが、スイスの1人当たり名目GDPは8万ドルをゆうに超え、日本の倍以上だ。

なぜこれほど差がつくのか。ひとつは優秀な人材を世界から引き寄せる国の魅力だ。ローザンヌ工科大学の外国人留学生比率は36%に達し、食品大手ネスレの経営幹部14人は7つの国籍で構成する。

価格競争をはじめから捨ててかかる「割り切り経営」も注目に値する。その代表格が時計産業だ。陳腐化の早いクオーツ時計に背を向け、昔ながらの機械式にこだわり、ブランドに磨いた。知的財産の塊である製薬産業なども集積する。「スイス企業は高いコストのままで、どうすれば競争力を発揮できるかを考える」とスイスのビジネススクール、IMDの高津尚志北東アジア代表は指摘する。

範はスイス・オランダ

次はオランダだ。農業である。国土の広さや人口は九州とほぼ同じ。国内市場に依存していては成長シナリオは描けない。そこで輸出に軸足を置いた「グローバル農業」を開花させた。

加工食品を含めた農産物輸出額は米国に次ぐ世界2位。欧州域内の自由貿易制度を最大限に活用し、生産品目を野菜やチーズ、豚肉などに絞り込む。輸出を後押しするのは技術革新による生産性の向上や食品企業との連携だ。

日本がコメの減反(生産調整)を本格導入した70年ごろまで、日本とオランダの農産物輸出額にそれほど差はなかった。その後、大きく水をあけられたのは日本が「ドメスティック農業」から抜け出せなかったことによる。

日米など12カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)で、オランダのように農業を外に向けて伸ばすのが可能になるはずだ。

明治、戦後と日本は2度にわたって外にモデルを求め、内を改め、世界に伍(ご)してきた。いままた新たな追いつき追い越せの時代がやってきている。

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