「健康ポイント」、商品券などと交換 自治体や企業
ウオーキングなどに付与、医療費削減効果も

地域を挙げて、15万人を超す市民を呼び込んでいるのが横浜市の「よこはまウォーキングポイント事業」だ。2014年11月から40歳以上の市民を対象に凸版印刷などと始めた。オムロンヘルスケアの歩数計を無料で配り、商店街などで約千店舗に専用リーダーを設置。参加者が歩数計をのせるとポイントを付与する。
「1日に4万歩を超えたこともある」と胸を張るのは鶴見区在住の男性(76)だ。「周りの多くがこの歩数計を持っていて、楽しくウオーキングできるよ」といい、利用者の輪が口コミでも広がっているようだ。ポイントをためれば、抽選で商品券などが当たるという楽しみもある。
今秋から市内の事業所単位でも参加できるようにした。そごう横浜店では、取引先を含む40歳以上の社員の約2割にあたる300人強が参加。総務部の男性は「1つ手前のバス停から歩いたり、階段を使ったりして1日1万歩以上を実現している」と話す。事業所ごとの結果はホームページでランキングとして公表され、事業所同士の競争意識も芽生えているようだ。

健康機器大手のタニタ(東京・板橋)は通信機能付きの活動量計などを使い、健康管理サービス「からだカルテ」を展開している。
14年度から「タニタ食堂」で知られる健康的な食事メニューとともに、自治体や健保組合に有料会員制のプログラムを提供。新潟県長岡市は14年11月に同プログラムを導入した。歩数や健康講座への参加などに応じてポイントがたまり、同市の共通商品券などがもらえる。年会費3000円にもかかわらず、2000人近い会員を集めている。
イオンと青森県、弘前大学は健康ポイントでショッピングセンター内のウオーキングを推進する事業を始めた。つがる市、おいらせ町の2施設では、買い物客が店内に6カ所ある専用端末のうち3カ所以上で電子マネーのカードをタッチするとポイントを獲得。電子マネーに交換したり、協賛企業の商品の割引クーポンを受け取ったりできる。
青森県は県民の平均寿命が全国最下位。県民の健康意識を高めようと事業に取り組む。店内では「体重は減った?」などと話し合う参加者も目立ってきた。

イオンは来年度以降、同様の取り組みを他地域にも広げる考えだ。「健康ポイントというインセンティブは無関心な人を振り向かせるのに有効」(イオンリテールの梅本和典会長)。協賛企業にも、健康意識の高い消費者に商品をPRできる利点がある。
国も健康ポイントの普及を後押しする。「スマートウエルネスシティ」総合特区に指定した福島県伊達市、千葉県浦安市、岡山市など6市で筑波大学、みずほ情報総研などと健康ポイントの大規模な実証実験を始めている。
14年12月から15年7月までの実施では、参加者(7622人)の約8割が「運動無関心層」や「運動不充分層」に当たる人だった。各地で広がりつつある健康ポイントは、運動不足が慢性化している人々の体を動かす「特効薬」になる可能性を秘めているのかもしれない。
1日当たり歩数 男女ともに減少
国民の健康志向が高まっているといわれるが、実際には日本人が1日に歩く歩数は減少傾向にある。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、2013年の成人男性の1日あたりの平均歩数は7099歩で10年前に比べて5.4%減少した。女性は6249歩で同じく7.6%減った。
国は、市民が健康に暮らせる都市「スマートウエルネスシティ」の推進へ総合特区を指定した。健康ポイントも国の助成制度などで普及に弾みがついた面がある。
特区構想では、医療費や介護給付費の抑制などによる経済効果を210億円と見込む。健康目的で歩く人が増えれば、関連用品の販売増など経済面だけでなく、住民同士の交流や町の防犯意識向上など様々な好影響を生み出せるはずだ。
(井上孝之)
[日本経済新聞夕刊2015年12月10日付]