調査捕鯨の再開は拙速だ
政府は南極海での調査捕鯨を再開した。従来の日本の調査捕鯨について国際司法裁判所(ICJ)は「科学調査目的とはいえない」と判断し、2014年3月に中止を命令した。来年の国際捕鯨委員会(IWC)総会の審議を経ない再開には疑問がある。
政府は中止命令を受け、昨年度は目視による調査にとどめた。捕獲調査は2年ぶりだ。対象とするクロミンククジラの捕獲頭数は年333頭。従来計画で目標としていた「850頭前後」の3分の1近くまで減らした。クジラを殺さずに調査する手法も拡充した。
しかしIWCは昨年9月、来年の総会で審議するまで調査捕鯨を再開しないよう求める決議を採択している。新しい計画についてもIWCの科学委員会では「333頭という数に妥当性はあるのか」といった異論が出ている。
再開に踏み切った理由について政府は、IWCの昨年の決議は国際捕鯨取締条約の規定を逸脱し、IWCの決議自体にも拘束力がない、と説明している。
これでは「日本がIWCの存在を無視した」といった反捕鯨派の声を勢い付かせかねない。時間はかかっても、審議で正当性を主張し支持国を増やすべきだ。
政府は鯨類を重要な食料資源とし商業捕鯨の再開をめざす方針を変えていない。世界の食料需要が増える中で権益を守ることは重要だ。だが、実際に再開が認められたとして、水産会社が再び遠洋に出かけ流通大手が鯨肉商品を店頭に置くようになるのだろうか。
年間約600万トンある食肉供給に対し、鯨肉の消費量は5千トン前後にすぎない。商業捕鯨再開という目的に合理性があるのか、よく考えてもらいたい。
地域に根付く鯨類の食文化は守りたい。現状では沿岸捕鯨も認められず、IWCの管轄対象から外れるツチクジラなどに頼らざるをえない。反捕鯨派を刺激する南極海などでの捕鯨をあきらめ、見返りに沿岸の捕獲枠獲得をめざす戦略への転換も、考えられる。