ネットメディアのステマ騒動 広告主は倫理再考を
(徳力基彦)
メディアのステマ騒動がとまらない。ステマとは「ステルスマーケティング」の略で、消費者に宣伝と分からないように宣伝すること。特に今注目されているのは、広告主側がメディアにお金を払って書いた記事だが、記事には広告としての明記がされていない「ノンクレジット記事広告」の問題だ。

ノンクレジット記事広告というと一見新しい広告メニューのように聞こえる。だが、普通の記事に見えるのに実は広告主のお金によって書いている記事であるわけで、読者からすると単なる「やらせ記事」だ。
今年のゴールデンウイークに、個人投資家の山本一郎氏が、こうした「やらせ記事」の販売にサイバーエージェントグループが関与していると指摘。同社が謝罪リリースを出したのが、象徴的な出来事だった。
「やらせ記事」についてはかねてその問題が指摘されてきた。本格的に業界健全化へのうねりが始まったのがインターネット広告推進協議会による3月のガイドライン制定だ。7月にはヤフーが「やらせ記事」やステマの撲滅を宣言した。今月には週刊ダイヤモンドが自らのオンライン媒体においても同様の問題があった事実を認め、その上で、ステマに関する特集を組んだ。メディア側も健全化しようという姿勢が明確になってきた。
ただ、相変わらずステマを続けているメディアや企業が複数存在しているようだ。一部業界では「やらせ記事」が慣習化しており、急には変えられないのではないかという見方がある。
慣習化を象徴するような例が、PR会社ベクトルの謝罪騒動だろう。同社は週刊ダイヤモンドの「やらせ記事」特集に対して反論した。特集で問題視されている行為は業界全体の習慣ともいえる話だったのに、ベクトル1社のみを攻撃するのは公正ではないと、訴訟も辞さない構えをみせた。だが、数日後には、「やらせ記事」的な施策がガイドライン制定後も存在していたことが判明したとして謝罪のリリースを出した。
一連の騒動から透けて見えるのは、「やらせ記事」が業界慣習となってしまった結果、業界関係者ですら、何がどう悪いのか分からなくなっている可能性があるという点だ。

今後、特に重要な役割を担うのが発注者である広告主の意識だろう。メディアやPR会社、広告会社がいくら健全化しようとしても、お金の出所は広告主である。広告主が「広告と分からないように記事を書いてほしい」とメディアやPR会社に依頼し続ければ、業界慣習として残るだけ。
アジアの新興国においては、メディアにお金を払わなければ当然記事を書いてもらえないという国もある。ただ、日本のような先進国で「やらせ記事」に手を出せば、やらせが発覚した時に企業ブランドが著しく傷つく恐れがある。オリンピックのエンブレム騒動が象徴するように、一度消費者が企業に疑いを持ち集団で検証し始めると、やらせやステマ行為もあっという間に暴かれてメディアの話題になる時代だ。
一連のステマ騒動では、広告主の担当者が知らないところで、「やらせ記事」が発注されていたというケースが散見され、社内外で物議を醸しているようだ。
日本の広告主の方々には、ステマ騒動を対岸の火事とせずに、自らのブランド価値を毀損しかねない深刻な問題であると認識することをお勧めしたい。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
〔日経MJ2015年11月27日付〕