歌舞伎座11月公演
海老蔵、祖父に通じる個性
戦後歌舞伎を切り拓(ひら)いた最大のエース十一世市川団十郎五十年祭。その子の十二世団十郎は既になく孫の海老蔵が祭主となる。曽孫勸玄(かんげん)が初お目見得、戦後70年の歳月は世代も四代に及んでいる。
海老蔵は祖父の当たり役から「若き日の信長」と「河内山」に取り組む。とりわけ前者は作者大佛次郎が十一世のために書き下ろし、新境地を拓いた意義深い作。一脈、祖父に通じる個性を持つ海老蔵は作のエスプリをよく捉えた好演。守り役の老臣平手中務(なかつかさ)の左団次も味わい深いが、亡父十二世が健在でこの役で父子共演していたらとつい夢想する。世代交替した助演陣の中で今川の間者役の右之助がひと際秀逸。
「河内山」も祖父を偲(しの)ばせる容姿、ひと癖ある肚(はら)を見せ面白いが、肝心要の「玄関先」の啖呵(たんか)で芸の若さを露呈する。但(ただ)し今回が初役、将来への期待は充分。梅玉の松江侯が芝居気を見せて面白い。
当代の大御所達、といっても十一世ではなく子の十二世と同世代だが、菊五郎が「御所五郎蔵」、幸四郎が「勧進帳」の弁慶、仁左衛門が「元禄忠臣蔵」から「仙石屋敷」の大石とそれぞれの到達点を示すのも、十一世を旗手とする戦後歌舞伎70年の現在地を刻するもの。十一世も演じた「御浜御殿」でなく「仙石屋敷」を選んだのは仁左衛門の意向か。討入後、大石等が大目付仙石伯耆守へ自訴する場だが、通し上演の一幕でなく単独作としてはやや平板か。
「勧進帳」は染五郎が富樫、松緑が義経と世代交替を睨(にら)んだ配役とも読めるが、その染五郎が初役で「実盛物語」を演じるのが清新で出色の出来。セリフにもうひとつ丸本味がほしいが、清爽な仁(にん)は当代一のはまり役。25日まで。
(演劇評論家 上村 以和於)