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犬とふれあい、リハビリ促進 ストレス和らげ前向きに

アニマルセラピー、病院にじわり

 つらいリハビリテーションや単調になりがちな入院生活を送る患者らのストレス緩和や治療効果向上を目指し、犬を使った「アニマルセラピー」(動物介在療法)を導入する医療機関が増えてきた。動物と触れ合う機会を設けた結果、医師や作業療法士は「リハビリに取り組む意欲が高まった」などと効果を実感している。
入院患者のリハビリに動物を使う「アニマルセラピー」を導入している北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)

埼玉県北本市の北里大学メディカルセンター。今年のノーベル生理学・医学賞受賞が決まった大村智・北里大学特別栄誉教授が開設に尽力した病院だ。このセンターの6階で10月下旬、1匹の犬と作業療法士らが待つ病棟の一角に80代女性が車いすに乗って現れた。

女性は脳梗塞が原因で手足にマヒが残った。リハビリを受けていたが本人はあまり積極的ではなかった。そこで「よい刺激になるのでは」(作業療法士の関根典子さん)とアニマルセラピーを実施することにした。

この日は約20分間、犬をなでたり鈴の付いた首輪をかけたりした。「かわいいね」と笑みがこぼれ、付き添った家族からは「硬かった表情が柔らかくなった」と驚きの声が漏れた。医療チームの理学療法士、桑原慶太さんは「手を自ら動かすようになったのは大きな進歩だ」と話す。

同センターは2014年2月にアニマルセラピーを試験的に始めた。導入にあたっては犬に抵抗感のある患者への配慮や、犬がかみ付いたり感染症を持ち込んだりする恐れがないかなどを入念に検討した。同大農医連携教育研究センターの饗庭尚子研究員の協力も得た。飼っている「ハイク」が盲導犬として訓練を受けており、病院内で人を驚かす心配がないことなどから、白羽の矢を立てた。

約1年半の試験期間中にアニマルセラピーを受けた患者は延べ約400人。同センターの坂東由紀副院長は「鎮痛剤の使用量減少やリハビリ効果が増すなどの結果が得られた」と強調する。

麻布大学の大谷伸代講師によると、アニマルセラピーで動物の何が、どのように影響するのか、詳しい仕組みはまだ分かっていないという。ただ「動物と触れ合うと血圧の低下や、体をリラックスさせる副交感神経が活性化することが確認されている」と説明する。

同センターでは今年9月、セラピーを担う犬を安定的に確保するため、日本盲導犬協会(東京・渋谷)と協定を結んだ。

重い病気を抱える子供のストレス軽減にもアニマルセラピーは役立っている。静岡県立こども病院(静岡市)では、平日の午前10時から午後5時まで犬が常駐する。活躍の場は広く、手術室に向かう子供や注射を嫌がる子供に寄り添って不安感を和らげ、治療に取り組む環境を整える。10年からアニマルセラピーを始めた。入院中の子供たちや家族の評判は上々だ。

大人の入院患者向けでも導入が進む。国立病院機構宇都宮病院(宇都宮市)は9月から月に1回、入院患者と犬が触れ合う時間を設ける。沼尾利郎院長は「治療ではなくストレス軽減が狙いだ。長期入院で気持ちが投げやりになっている患者もいる。犬との触れ合いで少しでも前向きになってもらいたい」と話す。涙を流して喜ぶ患者の姿に接し、病院スタッフも幸せな気持ちになるといったよい影響も出ているという。

臨床現場で広がりつつあるアニマルセラピーだが、課題も残っている。

宇都宮病院などに犬を派遣するNPO法人日本アニマルセラピー協会(神奈川県大和市)の高松雅行理事長は「数年前から引き合いが増えているが、特別の訓練を受け、犬と一緒に行動するセラピストの数が足りない」と話す。加えて「セラピーを担う犬には公的な認定制度がなく、地位が曖昧。認知度向上のためにも盲導犬のような制度が必要だ」と訴えている。

◇            ◇

動物ロボ 認知症患者に効果 産総研開発「パロ」 30カ国以上で利用

触れ合う動物には犬以外に馬やイルカを使う例があるが、最近はロボットのセラピー効果にも注目が集まっている。大きな瞳にふわふわの毛を持つアザラシ型ロボット「パロ」=写真=は、これまでに3500台以上が世界中で販売された。

パロは産業技術総合研究所の研究者が開発した。センサーが多数内蔵されており、名前をつけると反応するようになるほか、声をかけたりなでたりすると「感情があるかのように振る舞う」(販売する大和ハウス工業ヒューマン・ケア事業推進部の大場奈緒子氏)。

徘徊(はいかい)する認知症患者などへの効果が認められ、米食品医薬品局(FDA)から医療機器として認可された。現在、米欧を中心に30カ国以上の高齢者施設や病院で使われている。

認知症の高齢者がパロと過ごすようになってから夜間に尿意を訴えることが減ったとの報告もあり、大場氏は「家族の介護負担の軽減にもつながる」と話す。

(藤井寛子)

[日本経済新聞夕刊2015年11月5日付]

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