2018年10月22日(月)

クラウド活用が企業文化を変える
栄藤稔 NTTドコモ執行役員

2015/11/3 6:30
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「DevOps」という言葉がある。これは画像投稿サイトを運営する米フリッカーによる造語だ。同社が開発(Development)と運用(Operations)を一体化して顧客満足度を上げる施策をこの言葉で表した。

ネットサービス企業では開発運用の常とう手段になっているが、日本ではこの言葉はソフトウエアの開発手法として矮小(わいしょう)化されて解釈されている。

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

DevOpsの効果は開発と運用の一体化により、お客の反応を見てサービス改良を継続的に行うことができることにある。だが、その理解ではまだ表層的だ。

情報通信技術(ICT)分野だけでなく、今後は健康・医療や運輸、教育、製造、食品、金融の分野にも「ビッグデータによる産業最適化」という大波が来るであろう。データはサービス運用の現場にある。その現場にデータを利活用するIT(情報技術)に秀でた開発者が組み込まれている組織が理想だ。

そんな組織があればDevOpsはサービスの改善だけでなく、データとノウハウの資産化、自社サービスのIT化による競争力強化につながる。ポイントは「現場が自ら考え抜いて開発する」こと。それには組織・企業文化の変革を伴う。

歴史と伝統のある企業では、開発と運用は組織的に分化していることが多い。開発は「サービスを常に改良したい」と思う。一方、運用は「サービスを安定的に提供したい」と願う。開発と運用では役割が違うのだ。それらを一体化するのは単純な作業ではない。双方の協働を助ける環境整備が必要だ。

その鍵はどこにあるのか。私は今月上旬、米ラスベガスでクラウド事業で最大手のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)主催の開発者の集まりに参加していた。

そこで実感したことは本当の意味でのDevOpsのための環境がほぼ整ったということだ。顧客反応の計測、システム開発・試験・商用展開までの自動化、そしてデータ分析に関するあらゆるノウハウ――。これまでネットサービス企業の優秀なIT技術者だけが扱えた手段がクラウド技術の進歩により万人が使えるようになったのだ。

ゼネラル・エレクトリック(GE)やコカ・コーラ、アメリカオンライン(AOL)など米国の伝統企業のIT部門の経営幹部が壇上で「クラウド利用により組織横断のDevOpsの利用が深まった」と述べた。

米国でも伝統企業へのDevOpsの浸透は遅れていたことの証左だ。しかし、面白いのは道具に合わせて企業文化が変わっていくことだ。道具を使うことによって、ネットサービス企業の文化がGEに浸透する様子は実に興味深い。

日本はどうか。ラスベガスのイベントの2週間前、私は科学技術振興機構主催のもと、ICT分野で著名な識者数十人を集めて社会変革の展望を議論する会議を企画した。そこで次の数字が報告された。

IT技術者が米国では、ユーザー企業に72%、ITサービス企業に28%いる。一方、日本では、ユーザー企業に25%、ITサービス企業に75%いるとのこと。ここで言うITサービス企業はユーザー企業から発注を受けてシステム開発を行う会社である。

この数字が物語るのは日本では、社内の組織どころか、開発と運用が別々の会社に分かれている産業構造だ。

これはDevOpsとは真逆の状態だ。クラウドという道具の進歩に伴いDevOpsは確実に浸透する。ユーザー企業がシステムの内製化を進めることや、ITサービス企業がユーザー企業のサービスを運営するという転換が必要だ。ITを現場に据えた組織設計が未来への準備となる。

[日経産業新聞2015年10月29日付]

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