2019年8月26日(月)

自動車が向き合う21世紀の課題

2015/10/26付
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独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジンをめぐる不正事件は、同社にとどまらず自動車産業全体の信頼性に疑問を突きつけた。一方で今週は東京モーターショーが開幕し、各社から未来のクルマに向けた提案が相次ぐ。21世紀の自動車の姿はどうあるべきか、考えてみよう。

かつて米マサチューセッツ工科大の研究者は自動車を「世界を変えた機械」と命名した。

自動車は快適で便利な移動手段であり、物流でも鉄道からトラックへの主役交代で小回りのきくきめ細かな配送が可能になった。

3つのハードル越えよ

世界の自動車市場が過去1世紀、右肩上がりの成長を享受できたのも、それだけ自動車という商品の魅力が大きく、人々の心をとらえたからだ。だが、便利さや快適さの代償として自動車には負の側面もある。21世紀も交通の主役であり続けるには、3つのハードルを越えなければならない。

1つは言うまでもなく環境問題だ。VWの不正が衝撃的だったのは、当局をだました悪質さだけではない。排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)などの有害物質は1975年前後に各国で大きな社会問題になったが、その後の技術革新で「既に解決済みの課題」とみなされることが多かった。

ところが、現実にはそうでなかったことが、今回図らずも浮き彫りになった。事件を機に欧米では排ガス規制の強化が必至だ。技術的に対応できず、競争から振り落とされる企業が出るかもしれない。過去にも増して、環境技術の優劣が自動車会社の命運を左右する時代の到来である。

排ガス浄化と並ぶ環境競争のもう一つの軸が燃費向上による二酸化炭素の排出削減だ。この領域では、ハイブリッド車や燃料電池車など日本メーカーが世界をリードしている技術もある。

トヨタ自動車は2050年までに「エンジンだけで動く車をゼロにする」と宣言した。過去100年間、内燃機関(エンジン)が自動車のほぼ唯一の動力源だったが、その常識が塗り替わるのか。およそ1世紀ぶりの自動車のフルモデルチェンジに注目したい。

2つ目の課題は安全だ。世界保健機関(WHO)によると、交通事故の死者は世界で年間125万人に達し、15~29歳の若年層では死因のトップだ。日本の交通事故死は減っているが、高齢者ドライバーの増加など安全向上に向けて気が抜ける状況ではない。

事故低減には信号の整備や飲酒運転の厳罰化などに加えて、自動車の性能向上にも期待したい。

ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故は昔から多いが、これを防ぐ手立てはないか。運転手が発作を起こした時に、それを感知して安全に止まれる車もほしい。人間よりも機械のほうが俊敏に反応し、事故を防げるのなら、機械が主導権をもって車を操る完全自動運転にも挑戦すべきだ。

そして3つ目が渋滞だ。多くの新興国では、自動車の普及速度に道路整備が追いつかず、車が道にあふれかえっている。北京や上海では都心への車の流入制限を実施し、ジャカルタでは渋滞で飛行機に乗り遅れる人が珍しくない。時間のロスによる経済損失は大きく、発進と停止を繰り返すノロノロ運転は環境にも悪い。

賢い規制で解決支援を

渋滞解消の責任者は道路整備などを担うそれぞれの政府だが、企業が一役買うこともできる。

独部品大手のロバート・ボッシュはシュツットガルトで自動車とバスなどの公共交通を一体的に利用し、市内の混雑を防ぐ実証実験を展開中だ。米ウーバーテクノロジーズのように、1台の車に多人数の乗り合いを推奨するタクシー配車会社もある。

一連の社会的課題を解決するためには、自動車産業単独の取り組みには限界もある。例えば自動運転の実現には、人工知能(AI)技術がカギを握る。この分野に優れた米シリコンバレーの先端企業と提携するなど、自前主義を排して社外と柔軟に手を組む「開かれた経営」が大切になる。

政府も賢い規制、賢い政策によって問題解決を後押しすべきだ。国土交通省傘下の自動車事故対策機構は昨年から車種ごとの予防安全性能に点数をつけて評価し始めた。これが消費者の選択眼を高め、各社が安全性能の向上により力を入れる展開を期待したい。

日本の自動車メーカーは世界市場で合計32%のシェアを持ち、米国やドイツを引き離す世界首位だ。21世紀の課題解決においても主導的役割を果たしてほしい。

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