春秋

2015/10/17付
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明治6年設立の第一国立銀行は名前と裏腹に民営だった。トップの総監役に就いたのは渋沢栄一。彼が自ら作った契約書の草案がユニークだ。銀行の最寄りに住まい、銀行をわが住居と心得、業務時間外も銀行の取り締まりに意を配る――。そんな条項を入れたからだ。

▼東京・北区の渋沢史料館で開催中の企画展に草案が展示されている。24時間、仕事に全力投球という決意がうかがえる。渋沢が描いたのは民間から資金を集めて社会に行き渡らせ、取引を活発にして、産業を興し発展させることだった。開業指導にも力を入れた。契約書は民間の力を十二分に引き出す宣言でもあったろう。

▼民の力を発揮させることが課題なのは今も変わらない。安倍政権は「経済最優先」に軸足を戻してGDP(国内総生産)600兆円という壮大な目標を掲げた。きのうは経済界との「官民対話」の初会合を開き、投資拡大を促した。ただし問われるのは民が活動しやすい環境をつくるため、どれだけ政府も汗をかけるかだ。

▼第一国立銀行の行章は星形を2つ重ね、「ダブルスター」と呼ばれた。「朝に星をいただいて出勤し、夕に星を眺めて帰る」という勤勉さを表したものだ。規制緩和や法人税引き下げなど懸案が山積の今の政府も、一つ一つ仕事を仕上げる根気強さが要る。契約書で全力を尽くすことを誓えるくらいの気概はあるだろうか。

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