海外向け「越境EC」 爆買い見て売れ筋つかめ - 日本経済新聞
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海外向け「越境EC」 爆買い見て売れ筋つかめ

ネットイヤーグループ社長 石黒不二代

越境EC。国際的な電子商取引のことだ。「少子化がすすむ日本市場への依存度を低める」「海外のほうがECの伸び率が高い」など、始めるための理由に事欠かなかったこのサービス。停滞気味で成功事例をあまり聞いたことがない。

新産業の黎明(れいめい)期は失敗続きだから、驚くなかれ。それよりも市場が十分に大きくなるポイントでうまく仕掛けたものが覇者になると信じた方がよい。そのタイミングを見極めること、その「サイン」を見つけることに集中しよう。

通常、このサインを見極めるのは難しい。だが、幸いなことに今回はわかりやすい。それが中国からの観光客による「爆買い」なのである。

ECの典型的な失敗例は「作ってみたが売れません」というものだ。箱(サイト)を作っただけではどこにあるかわかってもらえない。消費者が認知して興味を持つようになるには様々な施策が必要だ。(1)検索エンジンの上位にランキングされる(2)広告を出す(3)ソーシャルメディアで話題になる――といったものだ。

越境ECの場合、ターゲット顧客は海外にいるため、特にこの施策が難しい。しかし、実際に起きている爆買いが認知と興味のプロセスを代替している。後は購買の場である越境ECを爆買いとつなげばよい。

爆買いまでのメカニズムは前回(9月3日付)で説明した。来日前に中国人がつくる買い物リストに自分たちの商品名が載るようにするには、彼らが使うソーシャルメディアを分析し、検索エンジンやソーシャルデータ上にリコメンドされるような施策が必要だ。

今日の主題である購買後のマーケティングが越境ECである。米有力調査会社によると、アジア太平洋地域のEC市場は2015年に北米のそれを抜く。経産省の調べによれば、14年の中国の消費者による日本の越境ECの市場規模は6064億円であり、18年にはそれが倍増する。

爆買いの恩恵は2つのルートで企業に及ぶ。1つは訪日中国人による口コミなどの拡散が新しい顧客をもたらすことだ。もうひとつは訪日中国人自身が帰国後も継続購買することだ。

訪日中国人の買い物体験は旅行後も続く。彼らが帰国後にお土産を分配したり、ソーシャルメディアに書き込んだりするのを意識して、優れた接客や在庫の確保などよい顧客体験をつくるように努めよう。この情報が彼らの親族や友人などに拡散し、次の接客の機会をもたらしている。

訪日中国人が帰国後も購買するための最も簡単な方法はECサイトでの購入だ。中国向けECでは日本でのECと同様に様々な仕掛けが必要だ。

中国の検索エンジンの上位にランキングされるようになるには中国名の表記が欠かせない。中国のネット通販大手、アリババのサイト「天猫(Tモール)」に正規に出店するのがよい。天猫国際では、優良推奨店舗の認定があり、認定されれば、優先的にアリババが持つ仕掛けを使える。

次に中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」と対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で公式アカウントをつくる。中国ではソーシャルメディアでの対応が、サイトの評価につながることが多いので中国語でのコミュニケーションを大切にしなければならない。

中国人が最もよく利用するアリババの個人間(C2C)取引サイト「タオバオ」では、代理購入が多い。正規ルート以外での販売は法的な問題をクリアしているわけではないが、販売への個人の参加の潮流は揺るぎない事実である。

ブランドを守りながらも、彼らのソーシャルでの書き込みは旅行者のそれと同様に購買への影響を与えていることを覚えておきたい。

[日経産業新聞2015年10月15日付]

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