消滅に向かうかバナー広告 広がる表示拒否ソフト - 日本経済新聞
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消滅に向かうかバナー広告 広がる表示拒否ソフト

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

「バナー広告20年の課題 ユーザーが見る度合い測れ」(日経MJ2014年11月24日付)で、「ネット広告の主役を長く果たしてきたバナー広告が今、大きな課題に直面している」と述べたことをご記憶だろうか。ホームページ上に掲示されるバナー広告の多くが来訪者に視認されていないと指摘され、特に米国の広告主や広告代理店らがこれを大きく問題視する事態となっている。

広告を表示するための情報サイトは現在も増え続け、取引されるバナー広告も膨大な数に上る。だが、バナー広告の広告効果に疑問符がつけられる事態を迎えていると、記事では指摘した。

だが、バナー広告はこの"視認"問題以上に根本的な問題に直面している。インターネットのユーザーの間でバナー広告の表示を拒否する動きが広がっているのだ。端的な例が、「広告ブロックツール」と呼ばれるソフトウエアの勢いが増していること。

同ソフトは情報サイトなどを回遊する際に、本来ならバナー広告が表示されるべきところを、技術的に非表示にしてしまう。我が国でも「アドブロックプラス」などが人気ソフトのひとつだ。

最近発表された大手ソフトウエア企業アドビらの調査では、今年6月時点で広告ブロックツールの利用者は全世界で2億人近くいる。ネット利用者全体に占める割合は小さいともいえるが、利用者は急速に伸びている。これによって広告業界がこうむった損失は218億ドル(3兆円)に迫ると調査は指摘している。

米国ではワシントンポストなどは、広告ブロックツール利用者が自社のサイトにアクセスしようとすると、「警告」を表示したりしている。だが、根本的な対策には至っていない。

さらに広告ブロック問題は新たな事態が生じている。米アップルが9月に公開したアイフォーンやアイパッドなどのモバイル機器用OS(基本ソフト)の新版に、広告ブロック機能を搭載したのだ。この機能を利用した広告ブロックツールが既に複数登場している。

広告によって収益を得ている情報サイト運営者にとってはたまらない話だ。なぜこのような状況に至ったのか、その背景について触れておこう。

ひとつはバナー広告自体の問題だ。サイト利用者は記事を快適に読みたいが、数多くのバナー広告が閲読を邪魔するかのような働きをしており、利用者が煩わしいと感じる機会が増えている。しかも、昨今の広告は利用者を追跡する複雑な機能を備え肥大化しており、ダウンロードに時間がかかる。広告ブロックツールを使うと、これら追跡機能が抑止される分、画面の表示が4割も早くなるという調査結果もある。いずれも、バナー広告が読者の利用体験を悪化させているというわけだ。

米アップルは新OSから情報サイト各社のウェブ向け記事を、「ニュース」というアプリへ提供するよう働きかけを始めた。アプリ内に専用の広告表示機能を備えており、収益はサイト各社に分配される。これまで一般的だったウェブブラウザーを使った情報サイト閲覧から、同社が提供するアプリを使った閲覧へと誘導しようという意図も見え隠れする。

読者から嫌われ、大手からは代替案を提示され、バナー広告の存在感は大きく揺らごうとしているのだ。

[日経MJ2015年10月5日付]

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