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「メーカー直販はまだ早い」そんな会社は損をする

(徳力基彦)

先月、鹿児島県で「ダイレクトサミット」というイベントが開催された。直販や通販事業に携わる企業を対象に、ダイレクトマーケティングのテーマに特化した日本初のイベントだ。

ダイレクトサミットには130社209人が参加した(鹿児島県内)

一般的に通販事業というと、化粧品など特定の商品に注力している単品通販や、顧客がカタログから商品を選ぶ総合通販と呼ばれるような事業形態を連想する人が多いだろう。ただ、こうした定義や境界線もインターネットやスマートフォン(スマホ)の普及により、大きく変わりつつある。

今や「オムニチャネル」というキーワードに代表されるように、小売りも通販サイトを持つのが当たり前になりつつある。従来直販していなかったメーカーも、直販サイトを開設し始めている。実際にダイレクトサミットに参加した企業の顔ぶれも、通販専業やウェブ通販の企業から、大手メーカーまで多様だった。

マスマーケティング時代は、小売りとメーカーの分業が比較的明確だった。メーカーの多くは商品を小売りの店頭に陳列してもらうことで販売機会を得た。直接顧客とのコミュニケーションを行うチャネルを持っていなかった。唯一のチャネルがコールセンターだったといえる。

イベント内では、多数の参加者がオムニチャネルについて活発な議論を展開した

今やネットによってメーカーも手軽に顧客と双方向のコミュニケーションを取ることが可能になった。だが、メーカーによる直販は小売りにとって自らの存在意義を否定する行為にも見えかねないため反発が予想され、本格的に直販に注力していないメーカーは多い。

ただ、プライベートブランド(PB)の普及によって状況は変化した。メーカーからすると、ある日、自社商品が置かれていた棚がそっくりPBに置き換えられてしまうという事態がありうる。小売りやメーカーという分類にかかわらず、どのようにして顧客に選ばれるブランドを築いていくかが重要になってきている。

ダイレクトサミットでは、オムニチャネルをどのように実現するかについて議論がなされた。オムニチャネルというキーワードが影響するのは小売りだけではない。顧客がスマホを手にしてどこでも購入の意思決定ができる今、メーカーにとっても、自社のブランドを選択してもらうためにどのようなチャネルを構築するかは非常に重要な議論になっている。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

象徴的な存在の1つがアップルだ。アップルはスマホやパソコンを製造し、家電量販店経由で販売を行う典型的な「メーカー」だった。直販サイトや直営店のアップルストアを展開し、顧客と直接コミュニケーションを取ることで、多くのファンが喜んで定価で製品を購入するブランドの地位を確立した。

こんなことが実現できるのはアップルのようなユニークな製品を持つメーカーだけだと思う人も多いかもしれない。だが、食品・飲料のような一般的な商品を扱っているメーカーでも、直販へのチャレンジは可能だ。

例えば、ダイレクトサミットで登壇した霧島酒造(宮崎県都城市)。いも焼酎「黒霧島」でおなじみの同社は自社の公式通販サイトで、黒霧島とは別に、「金霧島」や「黒宝霧島」など通信販売限定の商品を開発し販売している。これにより、多様な焼酎を飲んでみたいというファンの期待に応えているそうだ。

メーカーだから直販や通販は関係ないと思っている人は、せっかくダイレクトに顧客とつながれる時代になったのに損をしているかもしれない。

(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)

〔日経MJ2015年10月2日付〕

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