ビジネスチャット、中小に浸透 日米しのぎ、乱立か共存か
野呂 エイシロウ(放送作家・戦略PRコンサルタント)
企業のやりとりで最近よくこういわれる。「チャットワーク使っていませんか?」「Slackは?」。たまにスカイプもあるが、多くはこの2つ。同じ会社でも部門によってチャットワークを使ったりSlackを利用したりしている。

チャットの話だ。チャットは英語で「雑談」の意味。ネット用語では、複数の人がコンピューターのネットワーク上でテキストを入力してリアルタイムに会話できるシステムのことを意味する。
初めて使ったのは15年ほど前。マイクロソフトのMSNかヤフーのメッセンジャーを使ったのが最初だったと思う。当時、某外資系企業の担当者に「メールや電話じゃダメですか?」と尋ねたら、「電話だと仕事のじゃまをすることになる。メールだと文章が長い。挨拶も余分。仕事は速度だ」と言われ、半信半疑で使い始めたらこれまた便利だった。
その後、スカイプなどを使う企業などが続々登場したが、不便が多かった。そんな矢先、2011年にチャットワーク(大阪府吹田市、当時の社名はEC studio)が企業向けビジネスチャット「チャットワーク」を発売した。早速使ってみたら、これまでのチャットと違った。タスク管理やファイルの送信がスムーズで、すべてのチャットがウェブ上で整理・保存できる。スマートフォンにも対応する。
特に便利なのが、チャットの会議室の中で特定の人にメッセージを送れる機能だ。今や、会議はいかにコストをかけず効率化するかがカギ。チャットワークは、中小企業を中心にあっという間に浸透した。現在KDDIやnanapi、ヤマダ電機など7万8000社以上が採用しており、筆者も欠かせないアイテムとなっている。
12年には米国に現地法人を設立し、海外へ打って出た。米国にいる山本敏行社長は「アメリカ人マーケターを3人採用し、マーケティング展開を加速させている。いずれ全世界に普及させたい」と意気込みを語る。ちなみに今回の取材もチャットワークで行った。
一方、米国では、14年にビジネスチャット「Slack」が登場。プログラマーを中心に急速に利用者数を伸ばし、全世界で100万人以上が利用している。筆者もSlackを使っているが、説明が英語なのと、「♯」「@」マークなどの記号が複雑でちょっと苦戦中。でも、プログラマーなどコンピューターに詳しい人は拡張性があり、非常に便利だという。Slackの日本語版が出ることを望む。

いずれにせよ、日本生まれのチャットが米国に進出し、米国生まれのチャットが日本へ上陸と、両社とも国境を越えてしのぎを削っている。その他にも、ビジネスの現場でもフェイスブックメッセンジャーや無料対話アプリ「LINE」のグループチャットを使う企業も増えている。
筆者自身も会議に行かず、すべてをLINEで済ませるケースもある。チャットを多用することで、会議の数は確実に減った。チャットがなければ、こんなに多くの仕事はできなかっただろう。
日米で開発競争が繰り広げられるチャット競争。どこが勝つのか、あるいは乱立しながら共存していくのか。「ベータ対VHS戦争」のように決着するか……と続けようと思ったが、若い読者の大半はビデオテープ戦争を知らないかもしれない。
これからも各社がチャットの開発競争にしのぎを削り続けるだろう。と、この原稿を書いている間にもチャットにメッセージが多数来ていた。さてと、返事するか。
[日経MJ2015年9月13日付]