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「サブシステム」を担う

ライフネット生命保険会長兼CEO 出口治明

「出口さん、仕事の相談に乗っていただけませんか」。最近、このような相談を受けることが多くなった。歴史上どの時代でも働く悩みは存在するものだが、今日は僕なりの考え方を述べてみたい。

1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年に日本生命保険入社。08年ライフネット生命保険開業。13年6月より現職。

人間は誰しも周囲の世界をある程度理解して毎日働いている。この仕事はこういう仕事だ、この会社はこういう社風だなどと。

人間には向上心があるので、周囲の世界に100%満足しながら働いている人はおそらくいないだろう。皆、何かしら不満を持っているはずである。一方で世界は広く、自分1人で全てを変えることは残念ながらかなわない。

そうであれば、自分は今の置かれているポジションで何をすれば、世界を変えることにつながるのか。それをひたすら考え続けていくことが人間が生きる意味であり、働く意味であると僕は考えている。

「今生きている世界をどのように理解し、どこが嫌で、どこを変えたいと思い、自分は何をすることができるのか」。僕はこれを「世界経営計画のサブシステム」を担いながら生きると呼んでいる。

今の日本が陥っている深刻な問題のひとつに所得の減少がある。特にこれからの日本を担っていかなければならない20代、30代の若い世代の所得が減り、貧しくなっていることが問題だ。

経済的な理由などで若い人たちが子どもを産みたくても産めない。僕はこのような社会はおかしいと思った。

僕はたまたま生命保険会社に34年間勤めていて、生命保険の世界はよく知っている。還暦で偶然にも新しく生命保険会社をつくる機会をいただいた。

それであれば40兆円を超える巨大な市場である生命保険業界を変え「若い世代の生命保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産める社会を作りたい」と考えた。

これがライフネット生命保険の起業の動機であり、僕なりの世界経営計画のサブシステムの担い方だった。

世の中を変えていくということは、何もベンチャー企業を起業して、世の中を変えるということではない。人間は誰しもが、世界経営計画のサブシステムを担っているはずだ。

ライフネット生命保険がオフィスを構えているるビルには、7年前の開業以来、毎日、オフィスを掃除して下さっている女性がいる。

僕と同じように還暦を過ぎているその彼女は朝に出社すると必ず、誰よりも元気に「おはようございます」と声をかけて下さる。役職員一同、彼女から元気をもらっている。彼女の仕事は毎日同じ時間に、同じ場所を、同じように清掃することだ。

あるときに「いつもトイレをきれいに保っていただいてありがとうございます」とお礼を伝えると、「せっかくやるんだったらみんなに気持ち良く使ってもらえる方がいいじゃないですか」という言葉がすぐに返ってきた。

その通りである。彼女が毎日オフィスをきれいに清掃してくださっているおかげで僕たちは明るい気持ちで仕事と向き合えている。彼女は彼女なりに歴とした世界経営計画のサブシステムを担っている。

繰り返しになるが、この世界に生きている一人ひとりが世界経営計画のサブシステムを担っている。全員がいずれかのパートでふさわしい役割を果たしているからこそ、この世界が維持されている。

みなさんの努力はみなさんの人生だけでなく、この世界のあり方にも確実に影響を与えている。だからこそ僕たち一人ひとりが周辺の世界をもっと意識しながら行動することによって、変えていけることがまだあるのではないだろうか。

[日経産業新聞2015年8月20日付]

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