2018年11月13日(火)

終戦後史 1945―1955 井上寿一著 「もう一つの日本」の可能性見る

2015/8/19付
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70年となる戦後の基層は敗戦から1955年体制の成立までに築かれた。現代的な課題の多くがこの10年に起源を持つ。

(講談社・1650円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(講談社・1650円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は政治、外交、経済、社会、文化という5つの面から〈戦前/戦後〉の〈連続/断絶〉をたどり、「戦前に実現すべきだった国内構想と外交構想が断絶によってかたちを変えながらも、戦前と連続しながら戦後に実現していく過程」をみる。

著者によれば、「敗戦後の一〇年間は、今日の日本の原型を作ると同時に、今日とは異なる日本になるもう一つの可能性があった」という。つまり、「政権交代をともなう二大政党制の下で、日本が国連・アメリカ・アジアの三者間の均衡において自立的な外交を展開する可能性」があったというのである。

例えば、外務省特別調査委員会報告書「日本経済再建の基本問題」は、経済面における対米依存からの脱却を唱えつつ、アメリカを排除しないアジア地域主義を構想する。そこには経済学者の中山伊知郎や山田盛太郎などだけでなく、近衛文麿のブレーンだった昭和研究会系の蝋山政道らも参加した。蝋山は1930年代の新秩序構想を復活させようとしたという。

分析は統制経済から自由経済への転換、女性の地位向上、都市と農村の立場逆転、大衆文化、論壇、さらにはマリリン・モンローの来日にも及ぶ。吉村昭や山田風太郎らの作家や落語家、喜劇役者、漫画家、労組などの視点を織り交ぜながら、行き場を失ったナショナリズムを見出(みいだ)そうとする。占領はまた、進駐軍との異文化体験でもある。アメリカ化という時流に乗ろうとする者もいれば、徳富蘇峰のように筆を折ろうとする者もいた。

昭和天皇はどうか。社会党が結成され、片山哲の連立政権が誕生したとき、外相の芦田均は内奏で違和感を覚える。内外政に強い関心を寄せる天皇の言動は、新憲法下での象徴天皇制から逸脱しているように思えたからである。当の天皇は、ラジオで食糧難の克服を訴え、その反響を気に掛けた。明仁皇太子の欧米外遊は親米「平和国家」としての自国像を確立させたという。

やがて朝鮮戦争が起こると、再軍備を容認する世論が高まり、知識人の間には亀裂が生じた。政権としては鳩山一郎内閣が、吉田茂前内閣に対抗してソ連との国交を回復させる。

一般に包括的な通史は平板な叙述になりやすいものだが、天皇から映画までを描く本書は内容豊かである。埋もれた構想や感情にも鋭敏であり、戦後70年を測るうえでの基準点を提供してくれる。

(中央大学教授 服部 龍二)

[日本経済新聞朝刊2015年8月16日付]

終戦後史 1945-1955 (講談社選書メチエ)

著者:井上 寿一
出版:講談社
価格:1,782円(税込み)

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