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デジタル戦略が革新生む 「日経、FT買収」の衝撃

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

日本経済新聞社が英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)グループを買収するとの報は、メディアとメディア経営の将来を専門としてきた筆者にとって大きな衝撃となった。

日経のFT買収を伝える各紙

まず衝撃だったのは、世界における日経の存在感の希薄さだ。買収を発表した直後、海外の報道はFTとその親会社ピアソンを巡る話題に集中していた。海外のジャーナリストの多くが日経のことを詳しく知らなかったのだろう。その意味で、今回の買収は日経の実力と存在感との間のギャップを埋める役割を果たすかもしれない。

2番目の衝撃は取引額の大きさだ。約1600億円は、米アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が2013年に、米「ワシントン・ポスト」買収に投じた約300億円の5倍以上の額だ。

3番目の衝撃は、メディア(コンテンツ)企業がメディア(企業)を買収することだ。米「ニューヨーク・タイムズ」に、「だれがジャーナリズムのオーナーであるべきか?」というコラムが掲載された。

「伝統があり、世界でもっとも偉大な新聞が、同様の(歴史ある)経済紙に買収されたことを祝おう」(「The Financial Times Will Be in Good Hands(FTは良き協力者を得た)」)とした。短期的な収益を求める事業体にジャーナリズムが支配されることを危惧したうえで、FTがコンテンツに対する敬意と理解を有する日経に買収されることを歓迎している。

ただしメディアがメディアを、という同業他社による買収が導きうる帰結は、「1+1=2」という足し算だ。かけ算を可能にする"テコの作用"が見いだしにくい。これは、今回の買収の成否にもかかわってくる最も重要なポイントである。

筆者はメディア事業のイノベーションはコンテンツ自体からではなく、その流通過程から生み出されると考える。端的な例はモバイル化だ。スマートフォン(スマホ)への最適化は、結果としてメディア価値を高める。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年から現職。東京都出身、60歳。

日経にとってテクノロジーやテクノロジーを駆使する新興メディア企業に投資するという選択肢もあったはずだ。日経が過去に少額投資した情報管理サービス「エバーノート」の想定時価総額は約1200億円、交流サイトを活用して急成長する米ウェブメディア「バズフィード」は同約1800億円。IT(情報技術)投資をテコに成長メディアを次々に送り出す「ヴォックス・メディア」は同約1000億円。

バズフィードの月間訪問数は09年は100万程度だったが、15年2月には2億を超えている。共通の基盤技術に惜しみなく投資し、技術やマーケティング要員を編集部門と融合させている。米ワシントンポストで人気の若手コラムニスト、エズラ・クライン氏がヴォックスの開発してきた出版用基盤技術にほれ込んで移籍を決めたことでも話題になった。

一方のFTも、テクノロジーベンチャーを買収したりテクノロジー人材を強化したりしてきた。米アップル向けアプリを捨てて独自の路線を採用するなど様々なことに挑戦しているが、ニューヨーク・タイムズほどにモバイル分野での進展は見られない。FTと異なり、新興勢力はテクノロジーを活用して急成長を遂げている。

日経が生み出すコンテンツを世界へ、そして新聞紙を超えたデジタル、モバイルへと主導していくものはテクノロジーと、新興勢力との文化的融合だと考える。

[日経MJ2015年8月10日付]

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