2018年6月25日(月)

組織は小さく自己完結で ネットサービスに新潮流
NTTドコモ執行役員 栄藤稔

2015/8/11 12:00
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 マイクロサービス(microservices)という米国発の概念が昨年からインターネットサービスの設計指針として注目されている。ここ10年間の大規模システム開発の成功事例を観察してみると、共通の設計パターンがあったというものだ。

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

 どのような共通パターンなのか。システム開発に不案内な読者にも分かるように、筆者らが経験した音声認識応答サービスの開発事例をもとに「お返事くん」という虚構のサービスを使って説明したい。

 お返事くんは携帯電話のアプリで、様々な質問に音声で受け答えし、暇な時はしりとりや雑談もしてくれるサービスだとする。マイクロサービスの流儀にしたがって、お返事くんを設計すると以下のようになる。

 まず、お返事くんが提供するサービスを(1)音声認識(2)意図解釈(3)しりとり(4)雑談応答(5)音声合成――の5つの「機能」に分割する。次に各機能の開発業務を1つのチームに割り当てる。機能を商材と見なして、部長にそのオーナーになってもらう。

 オーナーである部長の下に設計・開発・運用・保守、さらにはデータ解析、企画を行う部員が数人いる。部の規模は8人以下とする。クラウド技術の進展により「安く早く」開発するには8人以下の編成が定石になっているからだ。

 部長は5人いる。彼らの間で必要なコミュニケーションは、担当する機能の入力と出力を厳密かつ簡潔に決めておくことだけだ。部長間の調整はそれだけで、個々の開発手法もバラバラでかまわない。やることは部員一丸となって担当機能を開発・運用し、性能向上に努めることだ。

 それぞれの部が独立した商材として機能を開発し運用するところがミソである。そしてその性能向上に責任を持つ。マイクロサービスという言葉の由来はここにある。

 商材として有望なのはまず音声認識だろう。「音声認識部」は携帯電話アプリの「お返事くん」に担当機能を提供するだけでなく、他社にも担当機能を販売できるよう努力する。

 「しりとり部」は厳しい。担当機能に発展性がなければ、この部は「雑談応答部」に吸収合併されてしまうだろう。有望商材を持つ「音声合成部」も慢心できない。他社の音声合成機能に取って代わられる可能性があるからだ。

 システム開発には「コンウェイの法則」と呼ばれる経験則がある。組織の構造が設計に反映されるという内容だ。システム設計と組織設計が表裏一体と言い換えられる。

 システムを機能の集合として記述し、各機能の相互依存性を減らして設計する発想は昔からあった。その発想を実装するため、マイクロサービスは「システム分割イコール組織分割」としている。単なる技術設計指針ではないのだ。

 システムを構成する各機能同士の関係をあえて疎にするため、縦割りの自己完結組織をつくる。組織間のコミュニケーションを意図的に減らし個別最適化する。

 そのメリットは少人数の各部門が独立して継続的に機能を開発し運用するという形で表れる。部門間調整に膨大な時間を費やし、開発完了直後からサービスの競争力劣化が始まるといったような事態を避けられる。

 技術開発のあり方が雇用慣行を含む社会文化に深く根ざしていることに留意してほしい。米国では雇用の流動性が高いため、サービスを提供する企業がエンジニアを採用して自前の開発チームを編成し、設計から運用まで一気通貫で行う。

 システム開発を外部企業に頼ることが多い日本企業ではどうすればいいか。自己完結組織を内外にどうつくり、連携させるかを考えよう。答えはそこにある。

[日経産業新聞2015年8月6日付]

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