JTのM&A 新貝康司著 プロセスを具体的に明かす

2015/8/5付
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私たちがお金を払うのは、その財に価格以上の価値があると判断するからである。企業を買う場合も同じで、価格以上の企業価値があることが前提となる。しかし、その企業価値の算定、デューデリジェンス(対象企業の精査)が誤っていると、企業の屋台骨そのものが脅かされる。特に大型化する海外M&Aの世界ではその失敗は致命傷になりかねない。M&Aは「時間を買うビジネス」といわれるが、現実には周到な準備に時間を掛けねば成功はおぼつかない。

(日経BP社・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(日経BP社・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は、著者が英国タバコ大手ギャラハーなど、過去10回の買収を通じて、いかにJTがグローバル企業の地位を得るに至ったか、最高財務責任者(CFO)としてM&Aの成功に至る道筋が明らかにされている。国内外を問わずM&Aに携わる責任者にとって、貴重なバイブルの書である。

本書に繰り返し現れるキーワードは「EBITDA」(のれん、償却前営業利益)と「シナジー」(相乗効果)。EBITDAは本業で稼いだ営業キャッシュフローであり、投資回収の原資になる。買収の成功は統合の成功なしにはありえない。統合後にその事業が十分なEBITDAを生み出せなければ、すなわち既存の事業との「シナジー」を生み出せなければ、買収は失敗に終わる。

「買収対象として戦略的に合致して経済合理性を全うできるのか」。2兆2500億円と、2007年当時で日本企業による最大規模の企業買収となったギャラハー買収の検討は、03年末頃から始められている。シナジーが一体どのくらいの金額になるのか。そこから逆算して、JTの株主価値を毀損せずにギャラハーにどれだけの買収価格を提示できるのか。著者の交渉にあたってのバックボーンはJT自ら作り上げた「買収後経営の青写真」であった。

企業買収は決して9回2アウトからの起死回生の一打ではあり得ない。「買収側の企業に十分な自律成長の勢いがあるか」、「買収後のガバナンスはどうするのか」。見極めるべき事項は多々ある。さらに統合後は、開かれた企業統治の実践、シナジーの追求など、企業価値を高める戦略が不断に実行されなければならない。経営者の決断と執念が要求されるのである。

本書は、戦略策定から実行までのプロセスも具体的に書かれ、また随所に著者の国際ビジネス感覚あふれるマネジメントのコツがちりばめられており、読みやすく、参考になるところが多い。

(専修大学教授 徳田 賢二)

[日本経済新聞朝刊2015年8月2日付]

JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書

著者:新貝 康司
出版:日経BP社
価格:2,376円(税込み)

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