2019年8月17日(土)

春秋

2015/8/1付
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息が詰まるような暑さが続く。外に出ると、熱風が体をぐいぐい押してくる。こんな炎暑からひとときでも逃れるには、一読ひやりとする怪談も効き目があるかもしれない。「夕鶴」で知られる劇作家の木下順二が自伝的な回想「本郷」で、恐ろしい体験を書いている。

▼戦後まもなく、本郷通りに面した洋館に住んでいた。ある雨の午後。外出から帰って、ぎしぎしと鳴る階段をのぼった。すると、自室の前に顔色のあまりよくない紺がすりの男が立っていた。ドアを閉め、こちらの方へ向きかかっていた。それは自分だった。「その"私"は今も私の眼の底にはっきりと残っている」そうだ。

▼ドッペルゲンガーだったのだろうか。もとはドイツ語で、自分とそっくりの分身が姿を現す現象のことだ。古今東西の小説や文献にも数多く登場し、不吉だと恐れられている。不安をかき立てるのは、その出現が当事者の最後を予告するともいわれるからだ。劇作家は「本能的に回れ右をして」、その場を立ち去っている。

▼2020年の東京五輪エンブレムの"分身"が現れた。酷似したロゴがすでにベルギーなどにあるという。関係者は「問題はない」と話す。だが、シンボルマークは顔である。既存の顔に慣れた人たちがそっくりの顔を見たら、ぞっとして本能的に背を向けるのではないか。何も感じないとしたら、それこそ怪奇な話である。

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