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大学を衰弱させる「文系廃止」通知の非

文部科学省が全国の国立大学に対し、人文社会科学系の学部・大学院のあり方を見直すよう求めた通知に反発が強まっている。ことさらに「組織の廃止」に言及するなど問題の多い内容であり、批判が高まるのは当然だろう。

時代の変化のなかで大学がその役割を自らに問い、改革を続ける必要があるのは言うまでもない。しかしこんどの要請は「すぐに役に立たない分野は廃止を」と解釈できる不用意なものだ。文科省は大学界を混乱させている通知を撤回すべきである。

この通知は、国立大の第3期中期目標・中期計画の期間(6年間)が来年度から始まるのに合わせて出された。各大学は新たな中期目標・中期計画を、これに沿ってつくるよう求められている。

通知のなかで文科省は「各大学の強み、特色、社会的役割を踏まえた速やかな組織改革を」と注文をつけ、特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努める」とした。

かねて文科省は国立大に、旧態依然たる横並びから脱し、グローバル化や大学ごとの特色を出すための取り組みを求めてきた。その方向性自体は理解できる。

しかし今回、人文社会科学だけを取り上げて「廃止」にまで踏み込んだのは明らかに行き過ぎである。文科省は「廃止」に力点は置いていないと釈明するが、大学側への強い威圧と受け止められても仕方があるまい。

また、通知にある「社会的要請」とはそもそも何か。実学的なスキル育成だけでなく、歴史や文化を理解する力、ものごとを批判的に思考する力を持つ人材を育てるのも大学の役割ではないか。そうした機能を失った大学は知的な衰弱を深めるに違いない。

さきの国立大学協会の総会では、文科省の姿勢に多くの懸念が示されている。日本学術会議も今月23日に「教育における人文社会科学の軽視は、大学教育全体を底の浅いものにしかねない」と強い調子で批判する声明を出した。

文科省は、国立大の運営費交付金の配分権を握っている。この権限をバックに大学に画一的な「改革」を押しつけても真の成果は期待できまい。11年前の国立大法人化のとき、文科省は大学の自主性を高めると説明していた。その約束はほごになったのだろうか。

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