2019年9月15日(日)

ドクター・スリープ(上・下) スティーヴン・キング著 冒険小説の要素強い「続編」

2015/7/27付
保存
共有
印刷
その他

訳者あとがきが強調しているとおり、ホラーの帝王の新作『ドクター・スリープ』はあくまでも小説『シャイニング』の36年ぶりの続編であって、スタンリー・キューブリック監督による映画の後日談ではない。

(白石朗訳、文芸春秋・各1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(白石朗訳、文芸春秋・各1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

雪に閉ざされたホテルを舞台に、怪異や幽霊が波状的に襲ってくる恐怖、正気を失っていく父の恐怖を描いた前作から30年後。〈かがやき〉という一種の超能力を持つ少年だったダニーは、父と同じくアルコール依存症に苦しむ中年男になっていた。特殊な能力は彼を幸せから遠ざけるが、ホスピスで死にゆく者に寄り添うことには役立ち、ついた綽名(あだな)がドクター・スリープ。

そんな彼は、離れた町で暮らす自分と同じ力を持った少女アブラと感応し合い、彼女に危機が迫っているのを知る。〈かがやき〉を有する子供の命気を吸って生きている〈真結族〉がアブラを狙っているのだ。ダニーは、残忍な魔性の者たちとの戦いを決意する。

まさに、読むジェットコースター。幽霊が次々に現れる前作は正調ホラーという趣だったが、続編はホラーであると同時に中盤から〈真結族〉との駆け引きや死闘が中心となり、冒険小説的な要素も強い。

この作品の中で、キングは特に新しいことをしていない(続編を書いたこと自体は初めての試みなのだが)。語り口は、いつものキング節。語られるのは真新しいストーリーながら、『呪われた町』『ファイアスターター』『グリーン・マイル』など先行作品に出てきたイメージ・モチーフ・テーマの変奏が多く、「これは『ミザリー』で使った手だな」という箇所もある。

大ベテランの偉大なるマンネリズムだとは言わない。「考えつく面白いことは全部スティーヴン・キングとかいう作家がやっているよ」ということだろう。

まったく衰えを見せない剛腕の作者も今年で68歳になる。満を持して発表した名作の続編が、キング・ワールドの集大成の観を呈するのは自然でもあるが、それだけの作品ではない。

子供の日に見た悪夢や怖い映画、空想に出てきたモンスターを呼び戻す彼の小説は童心を感じさせ、死が物語の中核にあっても常にパワフルで若々しかった。それがここにきて、老いや死の描き方に微妙な変化が生じているように思える(ダニーの生き方や真結族が後半になると怖さを減じていく必然性などから)。

これからのキング作品には、恐怖に融(と)けた苦味が深まっていくのではないか。そんな気配も感じた。

(作家 有栖川 有栖)

[日本経済新聞朝刊2015年7月26日付]

ドクター・スリープ 上

著者:スティーヴン キング
出版:文藝春秋
価格:1,944円(税込み)

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。