2019年1月22日(火)

格差の世界経済史 グレゴリー・クラーク著 「社会的流動性」の低さを実証

2015/7/13付
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本書のタイトルをみて、トマ・ピケティ著『21世紀の資本』を思い浮かべる読者が多いかもしれないが、原著のタイトルを和訳すると「子孫もまた繁栄する」である。その狙いは、できるだけ広範なデータを収集し、時代別・国別にみた「社会的流動性」についての法則を検証しようという壮大なものだ。結論は「今では一人ひとりの人生におけるチャンスは親の地位からだけでなく、"曾祖父母の祖父母"の地位からも予測できることの裏づけを得ている」とややショッキングだ。

(久保恵美子訳、日経BP社・4800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(久保恵美子訳、日経BP社・4800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書は、様々な国や地域(英国、米国、スウェーデン、インド、日本、韓国、中国、台湾、チリなど)における世代を通じての富裕層や貧困層を捕捉するのに「姓」を使う。「社会的流動性の法則」は、すなわち、Xt+1=bXt+etであると、極めてシンプルだ。Xは各家族の基盤となる社会的能力のことで、tは現世代、t+1は次世代を指すと考えてよい。bは「継続率」(世代間相関度のこと)、eはランダム(無作為)成分である。bに0.75という推定値を用いるのに異論があるかもしれないが、著者は、「このモデルを使えば特定の社会的・民族的・人種的・宗教的集団に関する社会的流動性の計測値が概して低いことの理由を、差別や民族的資本、各民族の社会的コネクションなどを要因として仮定せずに説明できる」と強気だ。

新しい「発見」と思われる記述はなかなか興味深い。例えば、中国が共産主義体制になって中・上流層の多くが処刑・追放されたにもかかわらず、社会的流動性は、社会的混乱を経験していない他の国々と同様に低かった。中国に科挙の制度があり、実力主義のようにみえた時代でも、姓の分布を調べると、科挙の合格者の間ではエリート層の姓の継続率が高かった。

日本の士族は1871年、華族は1947年に法的な特権を失ったにもかかわらず、現代日本でもかつての士族や華族の子孫がエリートとしての地位を驚くほど維持している……。

もちろん、著者は低い社会的流動性が厳密な階級社会を意味するわけではないと、ことわっている。「世代間相関度が〇・七五であっても、一般化した社会的地位のばらつきの五分の二以上は依然として予測不可能」だからだ。社会政策が社会的流動性の上昇に対して何の影響も及ぼしていないという主張には賛否両論あるだろう。「格差」に新しい光をあてる、極めて野心的な試みだけに、なおさら多くの論争を呼び起こすだろう。

(京都大学教授 根井 雅弘)

[日本経済新聞朝刊2015年7月12日付]

格差の世界経済史

著者:グレゴリー・クラーク
出版:日経BP社
価格:5,184円(税込み)

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