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シリコンバレー流の「空気」 企業トップこそ感じて

伊佐山 元(WiL 共同創業者兼最高経営責任者)

今週、当社のシリコンバレーオフィスには30~50代の大企業の社員が総勢21人集合した。目的は特にない。あえて言えばシリコンバレーのイノベーションの仕組みを少しでも理解するというふわっとした命題だ。ここまでだと、よくある悪しき企業の観光旅行で終わってしまう。そこで我々なりに工夫をして、能動的にビジネスアイデアを出し合ったり、街中のカフェでイノベーションの議論をしてもらったり、特定の課題の解決を考えさせたりするなど、いろいろな種類のワークショップを用意した。

月曜日には遠慮がちに「何でこんなところに来たのだろう」とよそよそしい様子で会社に集ったメンバーが、金曜日の夜には何ともさわやかな笑顔と前向きな気持ちを持っている。そして21人全員がイノベーションの同志となって週末を迎えようとしている。人はいくつになっても、環境さえ変えれば自分を変えられるのだ。

このシリコンバレー体験プログラムがここで終わってしまっては意味がない。日本の本社に帰ると、周りの空気を読みすぎて遠慮してしまう従順なサラリーマンに戻ってしまうからだ。いかにしてこの「シリコンバレーの空気」を社内に増やすのか、それが最大の課題である。

近年、大企業のシリコンバレーへの興味は高まっている。新しい事業や技術革新の不足。そうした危機感が昨今の動きに表れている。ただ「シリコンバレーに人を送れば何か良いことが起こるかもしれない」という受け身の姿勢では何も起きないことは、過去の多くのシリコンバレー駐在員戦略の失敗が物語っている。

シリコンバレーの活用を成功させるための要素はいくつかある。まず経営トップのコミットが不可欠だ。事業部レベルで議論したり、イノベーションの取り組みをしたりしたところで、ブームが冷めた頃には、忘れ去られる。

シリコンバレーを利用するオープンイノベーションを経営課題にしなければ、まともな新規事業や技術革新が起きるはずがない。中核事業を守り、少しでも伸ばしていこうとするとともに、新しいことを多く生み出そうとする企業文化を実践する。そうした「両きき」の経営がこれからは不可欠だ。

シリコンバレーに配置する人材が野球の投手にあたるならば、その人が投げるいろいろな面白い球を受ける良い捕手が本社にいることが不可欠である。多くの駐在員戦略の失敗の理由はここにあると考えている。

海外派遣組は本社でやっかみや面倒の対象になりがちだ。そうではなく、彼らの話を真剣に受け止めて実践しようとしなければならない。経営陣が本気でシリコンバレーを活用する気があるならば、良い人材を送り込むこと以上に本社の整備が大切な要素になる。

地元の日本人コミュニティーの力を利用することも重要だ。異業種の企業と手を組み、地元の支援も巻き込みながらイノベーションを実践してゆく。そうした新しい海外展開や駐在員の派遣の仕方があっても良いのではないか。

日本の大企業の社長には、このシリコンバレーの風を感じて、空気を吸ってほしい。世界中から集まる起業家の放つ前向きなエネルギーとそれを優しく包み込む環境。社長の多くがこの自由の風を感じて社内に持ち込めば企業文化を変えられる。「社長、次のシリコンバレー訪問はいつですか?」

[日経産業新聞2015年6月30日付]

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